SES・準委任エンジニアの法人化の目安|月単価60・70・80・90万円で個人事業主とひとり法人の手取りを試算(社保・均等割・税理士料込み、2026年)
「月単価70万円くらいなら法人にしたほうが得?」——SES・準委任で働くエンジニアが独立するとき、いちばん多い質問です。ネットには「年商1,000万円を超えたら法人化」のような目安が並びますが、社会保険料・税理士費用・均等割まで入れて、個人事業主とひとり法人の手取りを同じ条件で並べた数字は意外と見つかりません。
この記事では、月単価60・70・80・90万円の4パターンについて、個人事業主(青色申告・簡易課税)とひとり法人(役員報酬を固定・協会けんぽ・税理士あり)の手取りを令和8年度の料率で試算し、どの単価から法人が数字で有利になるのか、分岐を動かす変数は何かを整理します。最後に、法人化前に比較試算をしていなかった私のケースがどの行に当たるかも書きます。

結論:月単価60〜90万円は「個人事業主のほうが手元に残る」
| 月単価(税別) | 個人事業主の可処分所得 | ひとり法人(役員報酬50万円)個人の手取り+会社に残る額 | 差(法人 − 個人) |
|---|---|---|---|
| 60万円(年商720万円) | 502.5万円 | 428.3万円(会社は赤字) | −74.2万円 |
| 70万円(年商840万円) | 579.9万円 | 533.5万円 | −46.4万円 |
| 80万円(年商960万円) | 658.6万円 | 631.3万円 | −27.3万円 |
| 90万円(年商1,080万円) | 741.7万円 | 729.1万円 | −12.6万円 |
| (参考)100万円(年商1,200万円) | 819.7万円 | 825.2万円 | +5.4万円 |
2026年(令和8年分・令和8年度料率)、単身・40歳未満・東京23区・扶養なし・経費年60万円・簡易課税第5種。法人は税理士年40万円+バーチャルオフィス年2万円を追加。「会社に残る額」は法人税等を払った後の留保で、配当や退職金で取り出すときに再び課税されます。
数字だけで見ると、月単価60〜90万円の範囲では1年目の手元に残るお金は個人事業主のほうが多い。法人が「合計」で並ぶのは月単価100万円前後(年商1,200万円)です。この帯で法人化するなら、「今年の手取りを増やすため」ではなく、社会保険の給付・将来の退職金・法人契約と法人口座の信用・共済や経費の幅を買う判断になります。
試算の前提
| 区分 | 前提 |
|---|---|
| 人物 | 単身・40歳未満(介護保険料なし)・東京23区在住・扶養なし・他の所得なし |
| 年 | 2026年(令和8年分の所得税、令和8年度の社会保険料率・住民税率)。住民税は翌年度課税だが同年の負担として計上 |
| 売上 | 月単価60・70・80・90万円(税別)×12か月。精算幅・稼働の変動・賞与は考慮しない。単価は個人でも法人でも同じ(私の実感どおり) |
| 消費税 | インボイス登録済み・簡易課税第5種(サービス業、みなし仕入率50%)。受け取った消費税10%のうち5%を納付し、残る5%は所得に含める |
| 共通の経費 | 年60万円(PC・通信・会計ソフト・書籍など) |
| 個人事業主 | 青色申告特別控除65万円。国民年金(月17,920円)+国民健康保険(世田谷区の令和8年度料率)。所得控除は社会保険料控除と基礎控除のみ |
| ひとり法人 | 役員報酬は期首に固定(最適化しない)。会社の追加コスト:税理士 年40万円(顧問2万円×12+決算16万円)+バーチャルオフィス 年2万円。協会けんぽ東京(本人・会社折半)+子ども・子育て拠出金。法人税15%/23.2%、地方法人税、法人住民税(均等割7万円+法人税割)、法人事業税+特別法人事業税。税引後利益は会社に留保 |
| 手取りの定義 | 個人事業主=売上+簡易課税の差益−経費−国民年金−国保−所得税−住民税。法人=(役員報酬−社保本人負担−所得税−住民税)+(会社の税引後留保)。留保は生活費に使えないので「個人の手取りだけ」の列も示す |
| 入れていないもの | 小規模企業共済・iDeCo・経営セーフティ共済(個人・法人とも使える)、精算幅、配当・退職金、欠損金の繰越、設立費用、1期目の免税期間 |
出典:協会けんぽ「令和8年度 都道府県単位保険料率」、日本年金機構「国民年金保険料」、世田谷区「国民健康保険料の計算方法(令和8年度)」、東京都主税局「法人都民税」、同「法人事業税の税率」
個人事業主の手取り(月単価60〜90万円)
| 月単価 | 年商 | 事業所得(差益込み・経費・青色65万後) | 国民年金 | 国保 | 所得税 | 住民税 | 可処分所得 | 月あたり |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 60万円 | 720万円 | 631万円 | 21.5万円 | 68.9万円 | 53.0万円 | 50.0万円 | 502.5万円 | 41.9万円 |
| 70万円 | 840万円 | 757万円 | 21.5万円 | 82.2万円 | 77.1万円 | 61.3万円 | 579.9万円 | 48.3万円 |
| 80万円 | 960万円 | 883万円 | 21.5万円 | 94.7万円 | 100.5万円 | 72.6万円 | 658.6万円 | 54.9万円 |
| 90万円 | 1,080万円 | 1,009万円 | 21.5万円 | 95.8万円 | 129.9万円 | 85.1万円 | 741.7万円 | 61.8万円 |
国保は所得割(医療分7.51%+支援金分2.80%+子ども・子育て支援金分0.27%)+均等割で、上限は合計96万円(月単価90万円で到達)。
- 国保は所得に比例して年69〜96万円になる。所得割が約10.6%なので、所得税・住民税と合わせた限界負担率は40%を超える帯がある
- 青色申告特別控除65万円は法人にはない個人の強み(e-Taxまたは電子帳簿が条件)
- 消費税は、個人は令和8年分で2割特例が終わり、令和9・10年分は3割特例(個人事業者のみ、法人は対象外)。この表は簡易課税第5種で計算(2割特例はいつまで)
ひとり法人の手取り(役員報酬40〜70万円のパターン)
| 月単価 | 役員報酬 | 社保 本人 | 社保 会社 | 所得税 | 住民税 | 個人の手取り | 法人の所得 | 法人税等 | 会社に残る額 | 個人+会社 | 対個人事業主 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 60万円 | 40万円 | 69.8 | 71.6 | 8.5 | 23.0 | 378.8 | 102.4 | 29.9 | 72.5 | 451.2 | −51.3 |
| 60万円 | 50万円 | 85.1 | 87.3 | 15.2 | 31.0 | 468.6 | −33.3 | 7.0 | −40.3 | 428.3 | −74.2 |
| 70万円 | 40万円 | 69.8 | 71.6 | 8.5 | 23.0 | 378.8 | 228.4 | 58.1 | 170.3 | 549.0 | −30.9 |
| 70万円 | 50万円 | 85.1 | 87.3 | 15.2 | 31.0 | 468.6 | 92.7 | 27.8 | 64.9 | 533.5 | −46.4 |
| 70万円 | 60万円 | 100.5 | 103.0 | 32.0 | 39.7 | 547.8 | −43.0 | 7.0 | −50.0 | 497.8 | −82.1 |
| 80万円 | 50万円 | 85.1 | 87.3 | 15.2 | 31.0 | 468.6 | 218.7 | 56.0 | 162.7 | 631.3 | −27.3 |
| 80万円 | 60万円 | 100.5 | 103.0 | 32.0 | 39.7 | 547.8 | 83.0 | 25.6 | 57.4 | 605.3 | −53.3 |
| 80万円 | 70万円 | 114.3 | 117.1 | 51.2 | 49.1 | 625.4 | −51.1 | 7.0 | −58.1 | 567.2 | −91.4 |
| 90万円 | 50万円 | 85.1 | 87.3 | 15.2 | 31.0 | 468.6 | 344.7 | 84.2 | 260.5 | 729.1 | −12.6 |
| 90万円 | 60万円 | 100.5 | 103.0 | 32.0 | 39.7 | 547.8 | 209.0 | 53.8 | 155.2 | 703.0 | −38.6 |
| 90万円 | 70万円 | 114.3 | 117.1 | 51.2 | 49.1 | 625.4 | 74.9 | 23.7 | 51.1 | 676.5 | −65.2 |
単位:万円/年。法人の所得がマイナスの行は、役員報酬が売上に対して高すぎて会社が赤字になる設定。赤字でも均等割7万円はかかる。
社会保険料が「本人+会社」で2回かかる
国民健康保険 82.2万円
合計 約104万円
国保は所得が増えると上がるが、上限96万円で頭打ち
会社負担 87.3万円(+子ども・子育て拠出金)
合計 約172万円
一人社長は会社負担分も実質自分のお金
差は年60〜70万円。これが法人化で手取りが減る最大の理由です。代わりに得られるのは、厚生年金(老後の年金の上乗せ)・傷病手当金・出産手当金・扶養家族を保険料なしで入れられる仕組み。給付の中身はひとり社長の社会保険料で。
法人税等の実効率は約21%+均等割7万円
| 月単価・役員報酬 | 法人の所得 | 法人税 | 地方法人税 | 都民税 法人税割 | 均等割 | 事業税 | 特別法人事業税 | 合計 | 実効負担率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 70万円・40万円 | 228.4 | 34.3 | 3.5 | 2.4 | 7.0 | 8.0 | 3.0 | 58.1 | 25.5% |
| 80万円・50万円 | 218.7 | 32.8 | 3.4 | 2.3 | 7.0 | 7.7 | 2.8 | 56.0 | 25.6% |
| 90万円・50万円 | 344.7 | 51.7 | 5.3 | 3.6 | 7.0 | 12.1 | 4.5 | 84.2 | 24.4% |
単位:万円。所得400万円以下の税率部分は約21.4%(法人税15%+地方法人税1.55%+法人税割1.05%+事業税3.5%+特別法人事業税1.3%)。所得が小さいほど均等割7万円の重みで実効率が上がる(均等割)。
役員報酬を上げると法人のメリットが消える
同じ月単価70万円でも、役員報酬を40万円→60万円にすると「個人+会社」の合計は549万円→498万円と約51万円減ります。報酬を上げるほど社保の会社負担が増え、会社が赤字になり、個人側の税率も上がるからです。「売上の大半を役員報酬にして会社をトントンにする」設定は、法人の税率の低さを使えません。一方で報酬を下げすぎると生活費が足りない。役員報酬の設定が、法人化の損得を決める最大の変数です(役員報酬の決め方、役員報酬の試算例)。
損益分岐:どの単価から法人が有利になるか
| 月単価 | 個人事業主 | 法人(報酬50万円) | 差 | 法人(報酬60万円) | 差 | 法人(報酬70万円) | 差 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 80万円 | 658.6 | 631.3 | −27.3 | 605.3 | −53.3 | 567.2 | −91.4 |
| 90万円 | 741.7 | 729.1 | −12.6 | 703.0 | −38.6 | 676.5 | −65.2 |
| 100万円 | 819.7 | 825.2 | +5.4 | 800.8 | −18.9 | 774.3 | −45.5 |
| 110万円 | 890.7 | 919.8 | +29.2 | 897.1 | +6.4 | 872.1 | −18.6 |
| 120万円 | 961.6 | 1,014.5 | +52.9 | 991.8 | +30.2 | 968.6 | +6.9 |
単位:万円/年。「個人+会社に残る額」で比較。
- 税理士費用:年40万円で計算。決算だけ依頼して20万円台に抑えられれば、分岐は単価10万円ぶん手前に動く。逆に顧問料が高ければ後ろに(税理士の顧問料の相場と年間維持費)
- 役員報酬の額:50万円→60万円で分岐が単価10万円ぶん後ろに動く
- 国保の上限:自治体で異なる。上限が低い自治体ほど個人事業主が有利な帯が広がる
「個人の手取りだけ」で比べると、法人はどの単価でも個人事業主を下回ります(報酬50万円なら手取り約469万円で固定)。法人のメリットは会社に残る分と、その取り出し方(退職金・配当)、社会保険の給付にあって、今年の手取りではありません。
数字に出ないメリット・デメリット
| 観点 | 個人事業主 | ひとり法人 |
|---|---|---|
| 社会保険の給付 | 国民年金のみ。傷病手当金なし | 厚生年金の上乗せ、傷病手当金・出産手当金、扶養家族を保険料なしで |
| 共済・iDeCo | 小規模企業共済・iDeCo・経営セーフティ共済とも加入可 | 同じく加入可。効果はほぼ同じ(小規模企業共済、iDeCo) |
| 退職金 | 退職金の仕組みがない(共済が代替) | 役員退職金を会社から出せる。退職所得は税制上の優遇が大きい |
| 取引 | エージェント経由は個人でも問題なし | 法人契約・法人口座・インボイス番号。上場企業の業務請負など法人でないと契約できない相手がある(エージェント案件を法人で受ける手順) |
| 経費の幅 | 家事按分が中心 | 役員社宅・出張日当・生命保険など法人特有の経費(使うかは別) |
| 手間 | 確定申告1回 | 決算・法人税申告、社保の手続き、役員報酬の給与計算、源泉所得税の納付(源泉所得税の納付) |
| やめるとき | 廃業届 | 解散・清算に費用と手間。休眠という選択肢(合同会社のデメリット) |
| 会社員のまま始める | 開業届で可 | 会社員のまま法人を作ると社保は二以上事業所勤務(二以上事業所勤務届) |
私の場合:試算せずに法人にした

表を見れば分かるとおり、この設定は「手取りを最大化する法人化」ではありません。私にとっての法人のメリットは、大きな会社と契約できること、お金の管理がはっきりすること、共済などの制度でした(独立の経緯、3期分の決算)。実際には受託の売上や精算幅があり、消費税も2割特例から簡易課税に移っているので、表の数字そのままではありません。
これから法人化を考える人には、この表を税理士に見せて「自分の単価・家族構成・自治体ならどうなるか」を試算してもらうことをすすめます。私も今は、毎年の役員報酬と配当の額を税理士の試算で決めています(税理士に頼む範囲)。
法人化を判断する4ステップ
月単価×12。精算幅の上振れ・下振れは別に見る。90万円未満なら「数字では個人が有利」から出発する
生活費に必要な額と、会社に残したい額のバランス。報酬を上げるほど法人のメリットは消える
税理士(顧問か決算のみか)・均等割7万円・バーチャルオフィス・会計ソフト。合計49万円が目安(年間維持費)
法人契約が必要な取引先があるか、社保の給付や退職金をどう考えるか、家族を扶養に入れるか。数字で負けていても、ここに理由があれば法人化は合理的(個人事業主と法人の違い、正社員・フリーランス・ひとり法人の比較)
よくある質問
まとめ
月単価60〜90万円のSES・準委任エンジニアは、2026年の数字では個人事業主のほうが年12〜74万円多く手元に残ります。法人が合計で並ぶのは月単価100万円前後、役員報酬を50万円程度に抑えて会社に残せる場合です。それでも法人を選ぶなら、理由は手取りではなく、社会保険の給付・退職金・法人契約の信用・お金の管理。私はその理由で法人を続けていますが、これから選ぶ人は、この表を税理士に見せて自分の条件で試算してもらってください。
- 単価60/70/80/90万円で、個人事業主の可処分所得は502/580/659/742万円。法人(報酬50万円)の個人+会社は428/534/631/729万円
- 法人が不利な主因は、固定費49万円(税理士40・均等割7・VO 2)と、社保が国民年金+国保の約1.6倍になること
- 法人税等の実効率は約21%+均等割。個人の限界負担率(所得税20〜23%+住民税10%+国保約10.6%)より低いが、売上が小さいと固定費を埋められない
- 役員報酬を上げるほど法人のメリットは消える。「会社をトントンにする報酬」は税率の差を使えない
- 合計で並ぶのは月単価100万円前後(報酬50万円)、110万円(60万円)、120万円(70万円)。分岐は税理士費用・役員報酬・国保の上限で動く
- 法人の価値は数字の外(社保の給付・退職金・法人契約・扶養)。私は試算せずに法人にしたが、これから選ぶ人は税理士に試算を

