SES契約書のチェック10項目|準委任と請負の違い、精算幅(140〜180時間)・支払サイト・損害賠償の上限、フリーランス新法と2026年の取適法【ひとり法人で受ける側】
SES契約書で最初に見るのは、業務内容・精算幅・超過控除単価・支払サイト・損害賠償の上限など10の条項です。法人でSESや受託を受けるとき、契約書は「読まずにハンコ」になりがちです。でも、ひとり法人には損害賠償の上限、精算幅、支払サイト、再委託のように、書いてあるかないかで生活が変わる条項があります。この記事では、準委任と請負の違いから、SES契約で必ず見る条項、2024年11月のフリーランス新法と2026年1月の取適法(旧・下請法)まで、受ける側の目線でまとめます。


準委任と請負:何が違うか
| 準委任契約(民法656条) | 請負契約(民法632条) | |
|---|---|---|
| 目的 | 業務の遂行そのもの(時間・労務の提供) | 仕事の完成(成果物の納品) |
| 報酬 | 稼働時間に応じて(時間単価・月額+精算幅) | 成果物に対して(固定額) |
| 完成責任 | 負わない。ただし善管注意義務あり | 負う。完成しないと報酬が出ない |
| 不具合の責任 | 原則なし(注意義務違反があれば別) | 契約不適合責任(修補・減額・損害賠償) |
| SESでの使われ方 | 常駐・リモート問わず、SESの多くはこの形(履行割合型) | 受託開発・成果物納品型 |
※2020年の民法改正で、準委任にも「成果完成型」(成果に対して報酬)が明文化されました。契約書で「履行割合型」か「成果完成型」かを確認します。
SES契約書で必ず見る10の条項
| 条項 | 見るポイント | ひとり法人が注意する理由 |
|---|---|---|
| ① 業務内容・場所 | 担当範囲、技術、常駐かリモートか | 範囲が曖昧だと「それも含む」と言われる |
| ② 精算幅(清算幅) | 例:140〜180時間。下限割れ・上限超えの単価計算式 | 下限×単価が最低保証。下限が低いと収入が読めない |
| ③ 単価・超過単価・控除単価 | 超過分の割増、不足分の減額の計算式 | 控除単価が超過単価より高い契約もある |
| ④ 支払サイト | 締め日と支払日(月末締め翌月末など) | フリーランス新法で60日以内が義務。長すぎる契約は交渉 |
| ⑤ 契約期間・更新・中途解約 | 自動更新の有無、解約の予告期間 | 30日前予告が一般的。短すぎると急に収入が止まる |
| ⑥ 再委託 | 客先の承諾なしの再委託禁止が一般的 | ひとり法人は再委託しない前提で問題ないが、将来人を入れるなら確認 |
| ⑦ 知的財産権 | 成果物の著作権がどちらに帰属するか | 準委任は労務提供が目的なので、成果物の権利は明記がないと曖昧 |
| ⑧ 秘密保持 | 対象・期間・契約終了後の存続 | 副業時代の顧客と重なるときは特に注意 |
| ⑨ 損害賠償の上限 | 上限があるか(例:直近○か月の報酬額) | 上限なしはひとり法人には致命的。必ず交渉 |
| ⑩ 指揮命令の所在 | 客先が直接指揮命令する形になっていないか | 実態が偽装請負(労働者派遣法違反)だと契約自体が問題に |
精算幅(140〜180時間)と上下割・中割の計算を1回やっておく
精算幅とは、「稼働時間がこの範囲(例:140〜180時間)に収まっていれば月額をそのまま払う」という時間の幅のことです。下限を下回れば控除、上限を超えれば超過分が加算され、その割り方には上下割(下限で割った単価で控除・上限で割った単価で超過)と中割(基準時間で割った1つの単価で両方を計算)があります。用語の意味と計算の違いは精算幅とは?SES・準委任の「140〜180時間」の意味と上下割・中割の計算方法に分けて書いたので、ここでは契約書で見る計算例だけ載せます。
精算幅は「この時間の範囲なら月額固定、外れたら時間単価で調整」という仕組みです。下限を下回ったときの月額を1回計算しておくと、収入の最低ラインが分かります。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 月額(基準) | 70万円(160時間基準、精算幅140〜180時間) |
| 控除単価 | 70万円÷140時間=5,000円/時(下限で割る契約が多い) |
| 超過単価 | 70万円÷180時間≒3,889円/時(上限で割る契約が多い) |
| 稼働130時間の月 | 70万円−(140−130)×5,000円=65万円 |
| 稼働190時間の月 | 70万円+(190−180)×3,889円≒73.9万円 |
※数字は説明用の例です。控除・超過の割り方は契約ごとに違うので、契約書の計算式で確認してください。
2024年11月〜 フリーランス新法:ひとり法人も守られる
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)は、個人だけでなく「代表者以外に役員がおらず、従業員を使用しない法人」も保護の対象にしています。ひとり合同会社はこれに当たります。発注側(エージェントや客先)には次の義務があります。
- 取引条件の明示:業務内容・報酬額・支払期日などを書面かメールで直ちに明示
- 60日以内の支払:納品・役務の提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期日に支払う(再委託の場合は元の支払期日から30日以内)
- 1か月以上の委託での禁止行為:受領拒否、報酬の減額、一方的な低い報酬の決定、やり直しの強要など
- 中途解除の30日前予告(6か月以上の委託)、ハラスメント対策、募集情報の的確表示
2026年1月〜 取適法(旧・下請法)で変わったこと
下請法は2026年1月1日に「中小受託取引適正化法(取適法)」に名前が変わり、内容も強化されました。適用の判定は資本金の基準に加えて従業員数の基準も使われるようになり、システム開発などの情報成果物作成委託では、委託側が資本金1,000万円超または従業員100人超なら、資本金100万円のひとり法人が受ける取引は対象になります。受ける側にとって大きいのは次の3つです。
請求書:法人のインボイス番号で出す
法人化すると、インボイスの登録番号は法人の番号(T+13桁の法人番号)になります。個人事業主時代に登録していた人は番号が変わるので、取引先への通知と請求書テンプレートの更新を忘れずに。請求書には登録番号・取引年月日・内容・税率ごとの金額と消費税額・相手の名称を記載します。インボイスの判断は「ひとり合同会社のインボイス対応」へ。
契約前に確認する順番
準委任か請負か。準委任なら履行割合型か成果完成型か
精算幅の下限×単価(最低保証)、支払サイト(60日以内か)、控除・超過単価の計算式
損害賠償の上限、中途解約の予告期間
知的財産権の帰属、秘密保持の範囲と期間
指揮命令は誰か。客先が直接指示する形なら偽装請負のリスクを指摘
まとめ
- SESの多くは準委任(履行割合型)。完成責任はないが善管注意義務はある
- 必ず見るのは精算幅の下限・支払サイト・損害賠償の上限・中途解約・知的財産権・指揮命令の所在
- 精算幅の下限×単価が「最低保証」。1回計算して収入の下限を知っておく
- ひとり法人はフリーランス新法の保護対象。条件明示・60日以内支払・減額禁止は発注側の義務
- 2026年1月から取適法。一方的な代金決定・手形払い・振込手数料の受注側負担が禁止に

