エージェント経由の案件を法人で受ける手順|必要書類3つと、副業時代の個人契約を法人に切り替えたときの実務【ひとり合同会社】
「会社を作ったけど、エージェントの案件は法人でも受けられるの?」「副業時代に個人で結んだ契約は、どうやって法人に移すの?」——会社員のまま合同会社を作った人が、独立の直前に必ずぶつかる疑問です。結論から言うと、一人社長の法人でもエージェント経由の案件は受けられます。必要なものは実質3つ(代表者本人が稼働すること・履歴事項全部証明書・法人名義の口座)で、切り替えは「契約主体を法人に巻き直す」作業です。
この記事では、主要エージェントの公式FAQに書かれている法人契約の条件、必要書類のチェックリスト、副業時代の個人契約を法人に切り替えたときの流れ、法人で受ける場合と個人で受ける場合の違い(源泉徴収・インボイス・社会保険・契約書)、そして従業員のいない法人もフリーランス法で守られることまで、独立後に法人としてエージェント経由の案件で働いている私の実例つきで整理します。

エージェントは「一人社長の法人」と契約してくれるのか
まず不安なのは「法人は対象外と言われないか」でしょう。主要エージェントの公式FAQを確認すると、法人契約を受け付けると明記している会社がいくつもあり、残りの会社も「不可」と書いているわけではなく、記載がないので個別に問い合わせる形です。
公式FAQに書かれている法人契約の条件
| 項目 | 公式FAQで確認できた内容 |
|---|---|
| 法人契約の可否 | 確認した8社のうち4社が公式に「可」と明記。ほかは記載なし(=問い合わせ) |
| 代表者の稼働 | 「法人代表者本人が作業者であること」「契約者以外の従業員・協力者が代わりに作業するのは不可」と明記する会社あり。代表が複数いる法人は対象外とする会社も |
| 提出書類 | 履歴事項全部証明書(発行3か月以内)。登録時に提出し、審査後に追加書類を求められることがある。法人印(代表者印)を挙げる会社も |
| 振込先 | 法人名義の口座へ振込。「個人口座は使えない」と明記する会社あり |
| 個人契約との併用 | 契約は「法人」か「個人事業主」のどちらか一方。併用不可 |
| 期中の切り替え | 参画中の案件を途中で法人へ切り替える場合は、事前に担当者へ可否を確認。手続きに時間がかかる |
| 単価 | 法人だから上がるとは書いていない。単価はすべて税別表記が一般的 |
主要エージェントの公式FAQ・ガイド記事(2026年8〜10月更新分を含む)をもとに整理。条件は会社・案件ごとに異なります。
共通する条件は3つ

「法人だから単価が上がる」は期待しない
公式FAQで「法人なら単価が上がる」と書いている会社は確認できませんでした。私も、個人時代と法人になってからで単価の考え方は同じです。法人にする意味は単価ではなく、税金・社会保険・信用・お金の管理のほうにあります(個人事業主と法人の違い)。
法人で契約するときの必要書類チェックリスト
| 区分 | 書類・情報 | ポイント |
|---|---|---|
| ほぼ必須 | 履歴事項全部証明書(発行3か月以内) | 商号・本店・設立日・目的・役員が載る。法務局の窓口か「登記ねっと」でオンライン請求 |
| ほぼ必須 | 法人名義の銀行口座 | 契約主体と振込先の名義を一致させる。開設に時間がかかるので先に動く |
| ほぼ必須 | 法人番号(13桁) | 国税庁の法人番号公表サイトで確認。インボイスの登録番号は「T+この13桁」 |
| ほぼ必須 | 法人印(代表者印)/電子契約の署名 | 注文書・注文請書・秘密保持契約などに押印。電子契約なら代表者のメールで署名 |
| 求められることがある | 印鑑証明書 | 口座開設や一部の取引先で必要 |
| 求められることがある | 代表者の本人確認書類 | 運転免許証・マイナンバーカードなど。本人確認・反社会的勢力チェックの一環 |
| 求められることがある | インボイスの登録番号 | 登録していれば番号を伝える。未登録でも取引を継続する方針の会社が多い |
| 求められることがある | 反社会的勢力でないことの表明・確約 | 基本契約書の条項に含まれるのが通例 |
| 任意・参考 | 定款の写し・決算書 | エージェント経由では稀。直接取引の与信で求められることがある |
| 任意・参考 | 経歴書(スキルシート) | 個人時代と同じものでよい |
「ほぼ必須」は複数のエージェントの公式FAQで明記されているもの。「求められることがある」は会社・案件によって異なるものです。
書類を揃える順番
登記が完了すると法務局で取得できる。口座開設・エージェント・税務署への届出で何通も使うので、まとめて取っておくと楽(設立後の届出一覧)
登記から数日で国税庁の法人番号公表サイトに載る。通知書も郵送される
ネット銀行は最短数日、審査に時間がかかることもある。設立直後に申し込む(法人口座の審査で落ちないための準備)
登録するなら法人として新規に申請。設立した期の末日までに申請すれば期首にさかのぼって登録できる(ひとり法人のインボイス対応)
上の書類が揃った状態で担当者に伝えると、審査〜契約が一度で進む
副業時代の個人契約を法人契約に切り替えた実務
会社員のまま法人を作った人は、副業の売上をどこかの時点で法人に移します。私は設立から3か月後の2023年5月に移しました。流れは次の7ステップです。
法人名・設立日・事業内容と、代表者=稼働者本人であることを説明する
発行3か月以内のもの。追加書類を求められたら対応する
基本契約・秘密保持契約・誓約書を法人名義で巻き直す。個人契約との併用はできないので、以後は法人契約に一本化
参画中の案件を途中で切り替える場合は事前に可否を確認。締め日に合わせて月初から切り替えるのが実務上きれい
法人口座へ変更、請求書(または支払通知書)の名義・登録番号も法人に
個人事業主だった人は廃業届と、インボイス登録していれば「事業廃止届出書」。個人の登録番号を法人がそのまま使い続けることはできないので、法人で新規に申請する
個人の最終月・法人の初月の売上をどちらに計上するか。私はここは税理士に確認しました

- 期中の切り替えは事前確認:案件の途中で法人に変える場合、エージェント側の事務の都合で時間がかかる。更新のタイミングに合わせるのが確実
- 月途中の切替は避ける:締め日(月末)に合わせて翌月初から法人にすると、稼働報告・請求・入金がきれいに分かれる(毎月のお金の流れ)
- 個人の登録番号は引き継げない:インボイスの番号は事業者ごとに付くので、法人は「T+法人番号」で新規に登録する
法人で受ける場合と個人で受ける場合の違い
| 項目 | 個人事業主で受ける | ひとり法人で受ける |
|---|---|---|
| 源泉徴収 | エンジニアの準委任報酬は源泉徴収の対象として列挙されていないので、原則なし(デザイン・原稿などが混じる契約は要注意) | 法人への支払いは原則として源泉徴収なし |
| 消費税・インボイス | 個人の登録番号(T+13桁) | 法人で新規登録(T+法人番号)。設立した期の末日までの申請で期首にさかのぼれる |
| 社会保険 | 国民健康保険+国民年金 | 法人は事業主1人でも強制適用。役員報酬に対して健康保険・厚生年金(ひとり社長の社会保険料) |
| 契約書 | 本人名義の業務委託基本契約+個別契約 | 法人名義。「代表者本人が稼働する」「第三者に再委託しない」条項が入るのが通例 |
| 損害賠償 | 本人が責任を負う | 原則は法人の責任(合同会社の社員は有限責任)。ただし契約で代表者の連帯保証を求められる場合があるので契約書を確認(SES契約書のチェック10項目) |
| フリーランス法の保護 | 特定受託事業者として対象 | 代表者以外に役員がおらず従業員もいなければ、同じく特定受託事業者として対象 |
| 単価 | 案件の単価 | 同じ。法人だから上がるわけではない |
出典:国税庁 タックスアンサー No.2792、国税庁 インボイス制度Q&A(新設法人の登録)、日本年金機構「適用事業所と被保険者」、公正取引委員会 フリーランス法Q&A
源泉徴収は「法人だから引かれない」ではない
「法人にすると源泉徴収されなくなる」と言われることがありますが、正確にはエンジニアの準委任(プログラミング・システム開発)の報酬は、個人への支払いでも源泉徴収の対象として列挙されていないので、個人のときから原則引かれていません。源泉徴収の対象になるのは原稿料・講演料・デザイン料・士業の報酬などに限られます。デザインや執筆が混じる契約を結ぶときは、個人・法人を問わず税理士に確認してください。
社会保険はここが一番変わる
個人事業主なら国民健康保険と国民年金ですが、法人は代表者1人でも健康保険・厚生年金の強制適用です。役員報酬の額で保険料が決まり、会社負担分も自分の会社から出ます。独立後の手取りを比べるときは、この差を必ず入れてください(役員報酬はいくらにする?)。
従業員のいない法人も「フリーランス」として守られる
2024年11月に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、個人だけでなく、代表者以外に役員がおらず、従業員を使っていない法人も「特定受託事業者」として保護の対象にしています。一人社長の合同会社は、まさにこの条件に当たります。
成果物の受領日から60日以内の支払い
1か月以上の委託では、受領拒否・減額・買いたたき・不当なやり直しなどの禁止
6か月以上の委託では、30日前の解除予告と理由の開示
同日に取適法(旧下請法)も施行。両方が適用される発注では、書面を1つにまとめて明示できる
発注者が自分で使うシステム開発の委託は、取適法では対象外でもフリーランス法では対象
エージェント経由の案件で「誰が発注者(業務委託事業者)か」は、契約の相手がエージェントなら通常はエージェントと考えられますが、公正取引委員会のQ&Aでは、委託内容への関与や報酬の決め方、責任の主体などから総合的に判断するとされています。契約書の当事者を確認しておきましょう。
- 同居の親族だけを使っている場合は、フリーランス法上の「従業員を使用」には当たらない(公取委Q&A)
- ただし家族を役員にしていると「代表者以外の役員」がいることになり、特定受託事業者から外れる
- 私は妻を従業員として雇っているので、特定受託事業者のまま(家族は役員にする?従業員にする?)
出典:公正取引委員会「フリーランス法Q&A」、同「2026年のフリーランス法・取適法」特設ページ
よくある質問
まとめ
一人社長の法人でも、エージェント経由の案件は受けられます。必要なのは代表者本人が稼働すること・履歴事項全部証明書・法人名義の口座の3つ。副業時代の個人契約は、法人用のアカウント(契約主体)を作ってもらい、締め日に合わせて切り替えるだけです。法人にしても単価は変わりませんが、社会保険・インボイス・契約の責任の持ち方が変わるので、そこを押さえて独立に臨んでください。
- 主要エージェントの公式FAQでは、法人契約「可」を明記する会社と、問い合わせが必要な会社がある。「不可」と書いている会社は確認できなかった
- 共通条件は3つ:代表者本人の稼働・履歴事項全部証明書(3か月以内)・法人名義口座
- 切り替えは契約主体の巻き直し。個人契約との併用は不可、期中切替は事前確認、月初切替がきれい
- インボイスの登録番号は法人で新規取得(個人の番号は引き継げない)
- エンジニアの準委任報酬は個人でも原則源泉徴収なし。法人で一番変わるのは社会保険
- 代表者以外に役員も従業員もいない法人は、フリーランス法の「特定受託事業者」として保護される。2026年からは振込手数料の差し引きも「減額」に該当

