ひとり合同会社で家族は役員(社員)にする?従業員にする?|給料・社会保険・責任の違いと、扶養の範囲で払う方法【2026年】
ひとり合同会社を回していると、「経理や事務を妻(夫)に手伝ってもらって、給料も払いたい」という場面が出てきます。そのとき最初に決めるのが、家族を「役員(社員)」にするのか、「従業員」として雇うのかです。どちらも給料は払えますが、決め方・社会保険・責任・扶養への影響がまったく違います。この記事では、合同会社ならではの「役員=出資者」というルールから、2026年の扶養の数字まで整理して、どちらが向いているかの判断フローを置きます。

結論:事務を手伝ってもらうなら「従業員」、経営に加わるなら「役員」
・会社の持分(所有権)を家族と分けてよい
・毎月定額の報酬で問題ない
・社会保険は自社で入ってよい(扶養にこだわらない)
・会社の所有権は自分だけで持ちたい
・忙しさに合わせて時間と給料を変えたい
・社保の扶養・配偶者控除の範囲に収めたい
合同会社で「役員にする」は、株式会社で取締役を1人増やすのとは意味が違います。合同会社の役員(業務執行社員・代表社員)は出資者=社員の中からしか選べないので、家族を役員にする=家族に出資してもらい、会社の持分を分けることになります。ここを知らずに「肩書きだけ役員に」と考えると、あとで持分の払戻しや意思決定の話が出てきます。
合同会社の「役員」は出資者。株式会社の取締役とは別物
| 項目 | 合同会社の役員(業務執行社員) | 株式会社の取締役 |
|---|---|---|
| なれる人 | 出資した社員だけ(会社法590・591条) | 株主でなくてもよい |
| 選び方 | 定款で定める(総社員の同意) | 株主総会の決議 |
| 辞めるとき | 退社=持分の払戻しが発生(611条) | 辞任・解任だけ。株は残る |
| 責任 | 出資額を限度とする有限責任+善管注意義務 | 善管注意義務・忠実義務 |
| ひとり社長への影響 | 所有権を分ける。定款変更は原則「総社員の同意」 | 経営だけ任せて所有は分けない形が可能 |
条文は会社法(e-Gov法令検索)。合同会社の社員は全員有限責任です。
- 持分の払戻し:家族が退社するとき、出資分と利益の持分を会社から払い戻す必要がある(離婚・相続のときも同じ論点)
- 意思決定:定款変更などは原則「総社員の同意」。意見が割れると会社が動かない(定款で過半数などに変えられる)
- 損益分配:定款に定めがなければ出資額に応じて分ける(622条)。1円出資でも定款で配分を決めておく
- 税務上、合同会社の業務執行社員は「使用人兼務役員」になれない(国税庁タックスアンサーNo.5205)=完全に役員として扱われる
役員と従業員の違いを10項目で比較
| 項目 | 役員(業務執行社員) | 従業員(パート・アルバイト) |
|---|---|---|
| 決め方 | 定款変更+出資+登記(1万円) | 雇用契約。労働条件通知書を書面で交付(労基法15条) |
| 給料の変え方 | 定期同額給与:期首3か月以内に年1回。途中で上げ下げできない | 時給×時間。月ごとに変動してよい。最低賃金以上(全国加重平均1,121円) |
| 賞与 | 事前確定届出給与の届出がないと損金にならない | 損金になる(不相当に高額な分は不可) |
| 社会保険(健保・厚年) | 報酬があり経営に参画していれば加入。労働時間の基準は使わない | 週の所定労働時間が通常の4分の3以上(週30時間以上)で加入 |
| 雇用保険・労災 | 対象外 | 同居の親族は原則対象外(他に労働者がいなければ加入不可) |
| 残業代・有休・最低賃金 | 労働基準法の適用なし | すべて適用 |
| 責任 | 有限責任+善管注意義務。悪意・重過失なら第三者への賠償責任 | 労働者としての責任だけ |
| 辞めるとき | 退社の手続き+持分の払戻し+登記 | 退職届だけ |
| 配偶者の扶養 | 自社で社保に入れば金額に関係なく扶養から外れる | 年収130万円未満かつ週30時間未満なら社保の扶養に残れる |
| 税務署に見られる点 | 報酬の相当性(職務内容・他の役員との均衡)、定期同額の遵守 | 勤務の実態(出勤簿・業務の記録)、給与の水準、賃金台帳 |
出典:国税庁タックスアンサーNo.5210、日本年金機構「適用事業所と被保険者」、厚生労働省 令和8年3月18日通達、東京労働局(同居の親族の取扱い)。
役員にした場合:報酬は定期同額、社会保険は「経営に参画しているか」で決まる
家族を役員にして報酬を払うなら、ルールは社長の役員報酬と同じです。毎月同じ額を、事業年度の開始から3か月以内に決めて払う(定期同額給与)。「忙しい月だけ上げる」はできません。非常勤の役員に年1〜2回まとめて払う形は定期同額給与にならず、同族会社では事前確定届出給与の届出をしないと損金になりません(法人税基本通達9-2-12)。
社会保険は、役員には「週30時間」のような労働時間の基準がありません。法人から労務の対償として報酬を受けていれば被保険者が原則で、2026年3月の厚生労働省の通達では「経営への参画を内容とする経常的な労務の提供があるか」「報酬がその対価として経常的に支払われているか」を実態で判断するとされています。会議に出るだけ・実費程度の報酬なら対象外ですが、毎月定額の報酬で経理や事務を継続的に担っているなら、加入対象と判断される可能性が高いと考えたほうがよいです。加入すれば、配偶者はあなたの扶養から外れ、自社で保険料を払うことになります。
- 報酬ゼロの「名義だけの役員」なら社保の加入対象にはならないが、報酬ゼロでは持分を分ける意味が薄い
- 報酬を払うなら、定期同額+社保加入+扶養から外れる、をセットで受け入れる
- 税の配偶者控除は、配偶者の給与が136万円以下(令和8年分)なら役員報酬でも使える
- 役員報酬の決め方は 役員報酬はいくらにする? と同じ考え方
従業員にした場合:契約書と記録を作れば、扶養の範囲で柔軟に払える
賃金・労働時間・休日・就業場所と業務の変更の範囲(2024年4月から明示事項)。家族でも省略しない(労基法15条)
勤務の実態を示す記録。税務調査で「本当に働いているか」を見られるのはここ(労基法107〜109条)
役員の親族への不相当に高額な給与は損金にならない(法人税法36条)。同じ仕事を他人に頼んだらいくらか、で考える
申告書を出してもらえば甲欄。令和8年分の月額表では社会保険料控除後105,000円未満なら源泉0円
ひとり法人は「4分の3基準」だけ。従業員51人以上の会社の「106万円の壁」はひとり法人には関係ない
同居の親族は、他に労働者がいなければ雇用保険に入れない。労災が心配なら特別加入(労働保険事務組合経由)を検討

2026年(令和8年分)の「壁」の数字
| 壁 | 数字 | 役員の場合 | 従業員の場合 |
|---|---|---|---|
| 税:配偶者控除 | 配偶者の合計所得62万円以下=給与136万円以下 | 役員報酬でも同じ | 同じ |
| 税:配偶者特別控除 | 所得62万円超133万円以下=給与136万円超207万円以下(満額は給与約169万円まで) | 同じ | 同じ |
| 源泉所得税(甲欄) | 月105,000円未満は0円(社会保険料控除後) | 同じ | 同じ |
| 社保の扶養 | 年収130万円未満(60歳以上は180万円未満) | 報酬ありで経営参画なら金額に関係なく自社で加入 | 130万円未満かつ週30時間未満なら扶養のまま |
| 106万円の壁 | 従業員51人以上の会社だけ(2027年10月から36人以上、2035年10月に撤廃予定) | 関係なし | ひとり法人には関係なし |
出典:国税庁タックスアンサーNo.1191・No.1195、令和8年分源泉徴収税額表(月額表)、協会けんぽ「年収の壁」、厚生労働省(年金制度改正)。
従業員にしても「みなし役員」になる落とし穴
従業員として雇っても、税務上は役員とみなされることがあります。同族会社の使用人で経営に従事していて、持株の要件を満たす人は「みなし役員」です(法人税法施行令7条、国税庁タックスアンサーNo.5200)。持株の要件は配偶者の持分を含めて判定するので、社長100%の会社でも配偶者は要件を満たします。つまり、配偶者が取引先の決定・価格・資金繰りなど経営の判断に関わっていると、従業員の肩書きでも役員扱いになり、賞与は事前確定届出がないと損金にならず、給与は定期同額が求められます。
- 取引先との契約や単価を決めている
- 銀行とのやりとり・借入の判断をしている
- 採用や外注先を決めている
- 逆に、経理の入力・請求書の発行・郵便物の処理などの事務だけなら使用人のまま
就業規則は10人未満なら不要。でも簡単なものはあると楽
就業規則の作成・届出義務があるのは常時10人以上の労働者を使う会社です(労基法89条)。ひとり法人+家族なら義務はありません。それでも簡単なものを作っておくと、労働時間・休日・賃金の決め方が文書で残り、税務調査で勤務実態を説明しやすくなります。将来、家族以外を雇うときの土台にもなります。

判断フロー:役員にするか、従業員にするか
取引先・価格・資金の決定に関わるなら役員が自然(従業員にしてもみなし役員になる)。事務の手伝いなら次へ
残したいなら従業員(週30時間未満・年収130万円未満)。役員で報酬を払うと扶養から外れやすい
安定していれば役員報酬(定期同額)でもよい。繁閑があるなら時給制の従業員が柔軟
給与136万円以下で配偶者控除、207万円以下で配偶者特別控除。月105,000円未満なら源泉0円
離婚・相続のときの持分払戻しを受け入れられるなら役員。会社は自分だけで持ちたいなら従業員
役員向き=経営に参画・持分を分けてよい・毎月定額。従業員向き=事務の手伝い・扶養に残したい・時間と給料を柔軟に・所有権は渡さない
よくある質問
まとめ
- 合同会社の役員(業務執行社員)は出資者から選ぶ。家族を役員にする=持分を分けること(定款変更・出資・登記1万円)
- 役員報酬は定期同額。報酬があり経営に参画していれば社保に加入し、扶養から外れる
- 従業員なら契約書・出勤簿・賃金台帳を作り、週30時間未満・年収130万円未満で扶養に残れる。令和8年分は月105,000円未満で源泉0円、給与136万円以下で配偶者控除
- 同居の親族は雇用保険・労災の対象外が原則。経営に関わると従業員でも「みなし役員」
- 事務の手伝いなら従業員、経営に加わるなら役員。私は妻を従業員・月85,000円にしている

