役員報酬と給与の違い|ひとり社長の「給料」は何が違う?経費になる条件・社会保険・残業代・雇用保険と、社長の給料の決め方
ひとり社長の「給料」は、税金の世界では役員報酬(役員給与)と呼ばれ、従業員に払う給与とはルールが違います。
結論から言うと、どちらも個人にとっては同じ「給与所得」で、源泉徴収のしかたも同じです。違うのは、法人税で経費になる条件、雇用保険・労災保険の扱い、残業代や最低賃金のルール、そして金額の決め方です。この記事では、その違いを一覧表にまとめ、社長の給料の決め方の考え方までを整理します。

同じ会社から出ているお金でも、私の分は「役員報酬」、妻の分は「給与」。最初はこの違いがよくわかっていませんでした。

役員報酬とは?給与とは?まずは言葉の整理
国税庁は、給与所得を「使用人や役員等が支払いを受ける俸給や給料、賃金、歳費、賞与のほか、これらの性質を有する給与に係る所得」と説明しています。役員が受け取る報酬も、従業員が受け取る給料も、個人の所得税では同じ給与所得です。
違いが出るのは、会社の側から見たときです。法人税では、役員に払うお金を「役員給与」として特別なルールで扱います。この記事では、一般的な呼び方にあわせて、社長など役員に払うものを「役員報酬」、従業員に払うものを「給与」と書きます。
✅ 会社と役員の関係は「委任」
⚠️ 経費にするには「毎月同額」などの条件がある
⚠️ 雇用保険・労災は原則として対象外
✅ 会社と従業員の関係は「雇用」
✅ 原則として支払った額が経費になる
✅ 労働基準法・最低賃金・雇用保険・労災の対象
出典:国税庁 タックスアンサー No.1400「給与所得」、No.5211「役員に対する給与」[いずれも令和8年4月1日現在法令等]をもとに作成(2026年10月時点)
役員報酬と給与の違い一覧
ひとり社長が気にしておきたい違いを、1つの表にまとめました。細かい説明はこのあと項目ごとにしていきます。
| 項目 | 役員報酬(社長・役員) | 給与(従業員) |
|---|---|---|
| 個人の所得の種類 | 給与所得 | 給与所得 |
| 源泉徴収・年末調整 | 源泉徴収税額表で源泉徴収(給与と同じ) | 源泉徴収税額表で源泉徴収 |
| 法人税で経費(損金)になる条件 | 定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のどれかに当たること(不相当に高額な部分などは除く) | 原則として経費になる(役員の親族など特殊関係使用人への不相当に高額な部分は除く) |
| 賞与(ボーナス) | 事前確定届出給与として届け出ていなければ、原則として経費にならない | 原則として経費になる |
| 金額の変更 | 原則として期首から3か月以内。期中は臨時改定事由・業績悪化改定事由に限る | 昇給・減給は労働契約・就業規則にしたがって行う |
| 健康保険・厚生年金 | 法人から労務の対償として報酬を受けていれば被保険者 | 要件を満たせば被保険者 |
| 雇用保険 | 代表者は被保険者とならない(取締役などは原則として対象外) | 週20時間以上・31日以上の雇用見込みなどで被保険者 |
| 労災保険 | 労働者ではないので原則対象外(中小事業主等の特別加入制度あり) | 対象 |
| 残業代・最低賃金 | 労働基準法上の労働者でなければ適用されない | 適用される |
| 金額の決め方 | 定款・株主総会・社員の同意など(会社法) | 労働契約・就業規則 |
出典:国税庁 No.1400・No.5211・No.5205、法人税基本通達第8款、日本年金機構、厚生労働省(労働局・ハローワーク)の公開資料をもとに作成(2026年10月時点)。個別の扱いは各窓口に確認してください
同じところ:源泉徴収・納付・年末調整の流れ
違いの話に入る前に、同じところも押さえておきます。役員報酬も従業員の給与も給与所得なので、会社がやる「給与の事務」は基本的に同じ流れです。ひとり社長の場合、自分の役員報酬についても、会社が源泉徴収義務者として所得税を差し引いて納めます。
| 手続き | 内容 | 期限など |
|---|---|---|
| 源泉徴収 | 毎月の支払い時に、源泉徴収税額表にしたがって所得税・復興特別所得税を差し引く | 支払いのたび |
| 納付(原則) | 差し引いた所得税を国に納める | 支払った月の翌月10日まで |
| 納付(納期の特例) | 給与の支給人員が常時10人未満なら、申請して半年ごとにまとめて納められる | 1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日 |
| 年末調整 | 1年分の所得税を精算する | 年末(その年最後の支払い時) |
出典:国税庁 タックスアンサー No.2505「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」[令和8年4月1日現在法令等](2026年10月時点)。期限が土日祝日の場合は休日明けの日
納期の特例は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に出して使います。役員が自分ひとり、または家族を含めて数人という会社なら対象になりやすいので、設立したら税理士に相談してみてください。つまり、「お金を払ったあとの事務」はほぼ同じで、違いが出るのは「経費になるか」「保険・労働法の対象か」の部分です。

違い①:法人税で「経費になる条件」が違う
いちばん大きな違いがここです。従業員の給与は、原則として払った分がそのまま経費(損金)になります。一方、役員報酬は、国税庁の説明では「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれにも当たらないものは損金の額に算入されません。さらに、これらに当たっても、不相当に高額な部分などは損金不算入です。
業績連動給与は、国税庁の説明では同族会社に該当しない法人などが要件を満たす場合のものなので、ひとり社長の会社では定期同額給与が基本になります。「今月は儲かったから多めに」といった払い方をすると、その分が経費にならない可能性があります。期の途中で金額を変えるときのルールは合同会社の役員報酬を変えるときに詳しく書いています。
合同会社の社長は「使用人兼務役員」になれない
株式会社では、部長などを兼ねる取締役を「使用人兼務役員」として、使用人としての給与部分を分けて扱えることがあります。ただし、国税庁のNo.5205では、使用人兼務役員になれない役員として「合名会社、合資会社および合同会社の業務執行社員」が挙げられています。合同会社の代表社員が受け取るお金は、全体が役員報酬として扱われる、と考えておけば大丈夫です。
家族を従業員にする場合の注意
従業員の給与は原則として経費になりますが、役員の親族などの「特殊関係使用人」に払う給与のうち、不相当に高額な部分は損金不算入になります(法人税法36条、法人税基本通達9-2-40ほか)。妻など家族に給与を払う場合は、仕事の内容と金額が見合っているかを説明できるようにしておくことが大切です。家族に給料を払うときの考え方は妻に給料を払う話にまとめています。
違い②:社会保険・雇用保険・労災保険の扱いが違う
社会保険(健康保険・厚生年金)は、役員も従業員も加入します。日本年金機構は、株式会社などの法人の事業所は事業主のみの場合を含めて強制適用事業所としています。また厚生労働省の通知(令和8年3月)では、法人から労務の対償として報酬を受けている役員は被保険者とするのが基本、と整理されています。
一方、雇用保険と労災保険は「労働者」のための保険です。ここで役員と従業員の扱いが分かれます。
| 保険 | 社長(代表者・役員) | 従業員 |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金 | 法人から報酬を受けていれば加入(ひとり社長でも) | 要件を満たせば加入 |
| 雇用保険 | 代表取締役・代表社員などは被保険者とならない。取締役も原則として対象外(労働者的性格が強い兼務役員などは例外) | 1週間の所定労働時間20時間以上、31日以上の雇用見込みなどで加入 |
| 労災保険 | 労働者ではないため原則対象外。中小事業主等は特別加入制度で任意に加入できる | 労働者は対象 |
出典:日本年金機構「適用事業所と被保険者」、厚生労働省保険局保険課長・年金局事業管理課長通知(令和8年3月18日)、愛媛労働局「雇用保険の被保険者」、ハローワーク札幌圏Q&A、厚生労働省「労災保険制度における特別加入制度」資料(2026年10月時点)
労働局の資料では、合資会社・合名会社の代表社員は雇用保険の被保険者とならない方として挙げられています。合同会社について明記された部分は確認できませんでしたが、代表社員が会社を経営する立場であることは同じです。個別の扱いは、管轄のハローワークで確認してください。
なお、家族を従業員にする場合、事業主と同居している親族は、原則として雇用保険・労災保険の「労働者」には当たらないとされています(他の従業員と同じ条件で働いているなど、例外もあります)。妻や家族に給与を払うときは、この点も管轄のハローワーク・労働基準監督署で確認しておくと安心です。
社会保険の加入義務や保険料の具体的な金額はひとり社長の社会保険料はいくら?に早見表でまとめています。会社員から独立したときの切り替えは退職時の社会保険の切り替えに書いています。
違い③:残業代・最低賃金は役員には適用されない
労働基準法は、労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています(9条)。会社を経営する社長は、会社に「使用される者」ではなく、使用者の側です。そのため、労働基準法上の労働者に当たらない役員には、残業代(割増賃金)や最低賃金のルールは適用されません。
- 何時間働いても、役員報酬に残業代は上乗せされない。報酬額は「期首に決めた月額」がすべて
- 役員報酬は最低賃金を下回っても違法にはならない(月0円もあり得る)。ただし社会保険や生活費への影響は別に考える
- 「役員」という肩書でも、実態が労働者なら労働者として扱われることがある(判断は実態による)
- 従業員(家族を含む)を雇うと、その人には労働基準法・最低賃金法が適用される
出典:労働基準法9条(栃木労働局「労働基準法の解説」)、厚生労働省「スタートアップ労働条件」Q&A(2026年10月時点)
注意:合同会社の「社員」は従業員のことではない
合同会社でまぎらわしいのが「社員」という言葉です。会社法でいう合同会社の社員は出資者のことで、ふだんの会話でいう「社員=従業員」とは意味が違います。ひとり合同会社なら、出資した自分が「社員」であり「代表社員」です。
✅ 業務を執行する社員・代表社員は役員にあたる
✅ 受け取るお金は役員報酬
✅ 正社員・パート・アルバイトなど
✅ 受け取るお金は給与
たとえば登記簿や定款に「代表社員 〇〇」と書かれていても、それは従業員という意味ではありません。役員報酬の書類を作るときや、金融機関・窓口で説明するときに混同しないよう注意してください。
社長の給料(役員報酬)の決め方の流れ
役員報酬は、従業員の給与のように「働いた分だけ」ではなく、期首に1年分の月額を決めて、その額を毎月払うのが基本です。一般的には、次のような順番で考えます。私も金額は顧問税理士と試算して決めました。詳しい考え方は役員報酬の決め方に書いています。
家賃・生活費・貯蓄など、個人として毎月いくら必要かを出します。独立した当時の私の生活費は月40万円程度でした。
1年間の売上と経費の見込みから、役員報酬に回せる金額の上限を考えます。
法人税と、個人の所得税・住民税、社会保険料(会社負担分と本人負担分)を合わせて比べます。
合同会社は定款や社員の同意にしたがって決め、決定書(同意書)などで日付と金額を残します。
「役員報酬0円」にする選択肢もあります。報酬がなければ所得税も社会保険料もかかりませんが、生活費は別に確保する必要がありますし、社会保険の扱いも変わります。0円・低額・中額で何が変わるかは役員報酬の試算例で比べています。

私は税理士ドットコムで候補を比較し、最終的には知人の紹介で契約しました。顧問料は月2万円弱で、決算と申告、役員報酬の試算までお願いしています。
よくある質問
まとめ
役員報酬も給与も、受け取る側から見れば同じ給与所得です。ただ、会社から見ると、経費になる条件、保険、労働法のルール、決め方がはっきり違います。ひとり社長は「自分の給料は役員報酬」と意識して、期首に金額を決める習慣をつけておくと安心です。
- 役員報酬も給与も、個人では給与所得。源泉徴収のしかたも同じ
- 役員報酬は定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与でないと経費にならない
- 合同会社の業務執行社員は使用人兼務役員になれない
- 社長は雇用保険・労災の対象外(労災は特別加入制度あり)。健康保険・厚生年金には加入
- 労働者でない役員には残業代・最低賃金のルールは適用されない
- 合同会社の「社員」は出資者のこと。従業員ではない

