事前確定届出給与とは?ひとり社長が役員賞与を経費にする届出の期限・書き方・失敗例
役員賞与は、何もしなければ会社の経費(損金)になりません。経費にする方法の1つが「事前確定届出給与」です。「いつ・いくら払うか」を前もって決めて税務署に届け出て、そのとおりに払えば損金にできます。
ただし、ルールはかなり厳格です。届出の期限を1日過ぎても、届け出た金額と1円でも違っても、原則として全額が損金になりません。この記事では、役員給与の3つの型、届出の期限と書き方、9月決算のスケジュール例、よくある失敗、賞与の社会保険料までを、ひとり社長の目線で整理します。

役員報酬の決め方を調べていると、必ず出てくるのが「事前確定届出給与」です。ひとり社長にとってどんな場面で使えるのか、何に気をつけるのかを国税庁の資料で確かめてまとめました。

役員給与が損金になるのは3つの型だけ
法人が役員に払う給与のうち、損金になるのは次の3つの型に当てはまるものだけです。どれにも当たらない分は損金になりません(損金不算入)。
| 型 | 中身 | ひとり社長での使い方 |
|---|---|---|
| 定期同額給与 | 1か月以下の一定期間ごとに、同じ額を支給する給与。改定は原則、期首から3か月以内など | いわゆる「月額の役員報酬」。ほとんどのひとり社長はこれ |
| 事前確定届出給与 | 所定の時期に、確定した額の金銭(または株式等)を支給する旨の定めに基づく給与。原則、税務署への届出が必要 | 役員賞与を損金にしたいときに使う |
| 業績連動給与 | 利益などの業績指標をもとに算定される給与。対象法人や手続に厳しい要件がある | 同族会社が中心のひとり法人では通常使えない |
出典:国税庁タックスアンサーNo.5211「役員の給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」(令和8年4月1日現在法令等)、No.5210
ひとり合同会社の代表社員の給与も、この役員給与のルールで考えます。まずは月額の役員報酬(定期同額給与)があり、それとは別に「決まった時期に決まった額」を払うのが事前確定届出給与です。月額の決め方は役員報酬の決め方、金額別の試算は役員報酬の試算例で詳しく書いています。
月額報酬(定期同額給与)との違い
月額の役員報酬は、原則として期首から3か月を経過する日までしか金額を改定できません。期の途中で「今期は利益が出そうだから上げよう」と思っても、臨時改定事由や業績悪化改定事由に当たらなければ、増やした分は損金になりません。
事前確定届出給与は、この月額とは別枠で「○月○日に○円」を前もって決めておく仕組みです。月額の改定期限と届出期限はどちらも期の前半に来るので、「今期の役員給与は月額いくら+賞与いくら」をセットで決めるイメージを持つとわかりやすいです。
なお、定期給与を払っていない役員に、同族会社でない法人が金銭で払う給与などは届出が不要とされています。社員1人のひとり合同会社は通常この例外に当たらないので、賞与を損金にしたいなら届出が必要と考えておきましょう。
出典:国税庁タックスアンサーNo.5211(定期同額給与の改定時期、届出が不要な場合)
届出の期限はいつ?原則・新設法人・変更の3パターン
届出の期限は、次のうちいずれか早い日です。
| パターン | 届出期限 |
|---|---|
| 原則 | 次の①②のうち、いずれか早い日 ① 株主総会等で決議した日から1か月を経過する日(決議の日が職務執行の開始日より後なら、開始日から1か月を経過する日) ② 会計期間開始の日から4か月を経過する日(申告期限の延長の特例の指定を受けている場合は、指定の月数+3か月) |
| 新設法人(設立時に始まる職務) | 設立の日以後2か月を経過する日 |
| 臨時改定事由(役職の変更など) | ①臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日 と ②原則の期限 のいずれか遅い日 |
| 変更(臨時改定事由・業績悪化改定事由) | 臨時改定事由:生じた日から1か月を経過する日/業績悪化改定事由:変更の決議をした日から1か月を経過する日(変更前の定めの支給日がそれより前なら、その支給日の前日) |
出典:国税庁タックスアンサーNo.5211、国税庁「C1-24 事前確定届出給与に関する変更届出」・変更届出書の記載要領
合同会社の場合の「株主総会等」は?
国税庁は「株主総会等」を「株主総会、社員総会またはこれらに準ずるもの」としています。合同会社には株式会社のような株主総会がないため、定款の定めに沿って社員(出資者)が決定したことが「これらに準ずるもの」に当たると考えるのが一般的です。社員が1人のひとり合同会社なら、代表社員が決定した内容を日付入りの決定書(同意書・議事録)として残しておくことが大事です。どの書面を作るかは定款の内容によるので、顧問税理士に確認してください。
出典:国税庁タックスアンサーNo.5210・No.5211(「株主総会等」の定義)
- 「決議から1か月」と「期首から4か月」の早い方。決議が遅いと4か月の方が先に来る
- 設立1期目は設立の日以後2か月。他の届出(法人設立届出書など)と同じ時期に重なる
- 期限は税務署に「届く」日で考え、余裕をもってe-Taxで出すのが安心
- 支給日が過ぎてから出しても認められない
届出書の書き方:「事前確定届出給与に関する届出書」と付表1
提出するのは「事前確定届出給与に関する届出書」と、対象者ごとの付表1(事前確定届出給与等の状況(金銭交付用))です。提出先は納税地の所轄税務署長で、e-Taxでも提出できます。
| 書く欄(主なもの) | 書く内容の例 |
|---|---|
| 事前確定届出給与の対象者 | 代表社員の氏名・役職 |
| 決議をした日・決議機関 | 社員の決定をした日付と、その機関(社員総会等) |
| 職務執行の開始日・職務執行期間 | 役員としての職務執行が始まる日と、その期間(例:2026年12月1日〜2027年11月30日) |
| 支給時期・支給額(支給予定分) | 「2027年6月30日 ○○円」のように、時期と金額を確定させて書く |
| 支給済分 | 前回以前の届出額と実際の支給時期・支給額(変更届出をしていれば変更後) |
| 事前確定届出給与以外の給与 | 月額の役員報酬(定期同額給与)の支給時期・金額 |
出典:国税庁「付表1(事前確定届出給与等の状況(金銭交付用))の記載要領等」。様式は国税庁ホームページの届出書・記載要領で確認。
記載要領では、職務執行の開始日は「定時株主総会の開催日など」を基準にするとされています。対象者が複数いる場合は付表を1人ずつ作ります。ひとり社長なら付表は1枚です。
ポイントは「時期」と「金額」を確定させて書くことです。「業績に応じて」「○円程度」のような書き方では、事前確定届出給与になりません。
9月決算のひとり合同会社のスケジュール例
9月決算(10月1日〜9月30日)のひとり合同会社が、期の途中で賞与を1回払う場合の流れを例にします。日付は説明のための例です。
前期が終わります。決算の数字を見ながら、今期の月額報酬と賞与の方針を税理士と相談します。
例として11月25日に、月額報酬と「2027年6月30日に○○円」の賞与を決定し、決定書を作ります。
決議日から1か月を経過する日(12月25日)と、期首から4か月を経過する日(1月31日)の早い方なので、12月25日が期限です。
届け出た日に、届け出た金額を支給します。源泉徴収も行います。
社会保険の「被保険者賞与支払届」を支給日から5日以内に提出。源泉所得税は納期の特例なら7月10日までに納付します。
9月決算の1年の流れは9月決算のスケジュールにまとめています。月額報酬の改定期限(期首から3か月)と、賞与の届出期限が同じ時期に来るので、顧問面談で一緒に決めてしまうのが効率的です。
私は税理士ドットコムで候補を比較し、最終的には知人の紹介で契約しました。顧問料は月2万円弱で、決算と申告、役員報酬の試算までお願いしています。
届出どおりに支給しないとどうなる?よくある失敗例
法人税基本通達では、届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合は事前確定届出給与に該当しないとされ、原則としてその支給額の全額が損金不算入になります。多く払っても、少なく払っても同じです。
出典:法人税基本通達9-2-14(事前確定届出給与の意義)
⚠️ 資金が足りず届出額より少なく払った
⚠️ 支給日をずらした(届出の時期と違う)
⚠️ 届出の期限を過ぎて提出した
⚠️ 決議の書面が残っていない
✅ 支給日は資金に余裕のある時期にする
✅ 支給日をカレンダーと会計ソフトに登録
✅ 業績悪化など正当な事由での変更は変更届出(期限あり)
✅ 決定書・届出の控えを保存
全額が損金不算入になると、法人側では賞与の分だけ法人税等が増えます。一方で、受け取った役員本人には給与として所得税・住民税がかかり、社会保険料もかかります。会社と個人の両方で税金がかかる形になるので、ひとり社長にとっては痛い失敗です。
なお、業績が悪化した場合などの「業績悪化改定事由」は、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に届かなかっただけでは認められないとされています(国税庁タックスアンサーNo.5211)。安易な減額はできないと考えておきましょう。
賞与にも社会保険料がかかる:標準賞与額と上限
役員賞与にも健康保険・厚生年金の保険料がかかります。賞与の保険料は「標準賞与額」に保険料率をかけて計算します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 標準賞与額 | 実際に支払った賞与額(税引き前の総支給額)から1,000円未満を切り捨てた額 |
| 健康保険の上限 | 年度(4月1日〜翌年3月31日)の累計で573万円 |
| 厚生年金保険の上限 | 1か月あたり150万円(同じ月に2回以上なら合算して判定) |
| 賞与の範囲 | 年3回以下の支給。年4回以上は賞与ではなく報酬(標準報酬月額)の対象 |
| 手続 | 「被保険者賞与支払届」を支給日から5日以内に日本年金機構へ提出 |
出典:日本年金機構「賞与等を支払ったときの手続き」・賞与の保険料の計算方法に関するページ
月額の報酬は「標準報酬月額」、賞与は「標準賞与額」と、計算の土台と上限が別になっています。そのため、月額と賞与の配分を変えると社会保険料の総額が変わることがあります。ただし、保険料が減ると将来の年金額にも影響しますし、配分によって法人税・所得税の負担も変わります。社会保険料だけで決めず、税理士に会社と個人の手取り全体で試算してもらうのが安全です。
ひとり社長が事前確定届出給与を使うメリットと注意点
✅ 月額は抑えめにして、資金が貯まる時期に賞与を払う設計ができる
✅ 月額と賞与の配分で、会社と個人の負担を調整する余地がある
✅ 期首3か月を過ぎても、届出期限内なら賞与の方針を決められる
⚠️ 1円・1日のズレで原則全額が損金不算入
⚠️ 決議書面・届出・源泉・賞与支払届と手間が増える
⚠️ 業績が良くても「後から上乗せ」はできない
⚠️ 賞与にも所得税・社会保険料がかかる
ひとり社長の場合、売上の大半が少数の取引先に偏ることがよくあります。SESなら契約が途切れる月もありえます。半年先の資金が読めないなら、無理に賞与を設けず月額報酬だけで運用するのも十分に合理的です。私も月額の役員報酬で決めています。

- 支給する時期の資金繰りに余裕はあるか(届出どおりに必ず払えるか)
- 決議の日・職務執行の開始日・届出期限をカレンダーに入れたか
- 社員の決定書(議事録・同意書)を日付入りで作ったか
- 支給額は源泉徴収後の手取りと社会保険料まで含めて試算したか
- 会社と個人の負担全体を税理士に試算してもらったか
よくある質問
まとめ
事前確定届出給与は、役員賞与を損金にするための制度です。決めて、届けて、そのとおり払う。この3つがそろって初めて損金になります。
- 役員給与が損金になるのは、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3つだけ
- 届出期限は「決議から1か月」と「期首から4か月」の早い方。新設法人は設立から2か月
- 合同会社は「社員総会またはこれらに準ずるもの」の決定を書面で残す
- 届出と1円・1日でも違うと、原則として支給額の全額が損金不算入
- 賞与にも社会保険料がかかり、支給日から5日以内に賞与支払届が必要
- 売上が読めないひとり社長は、月額の役員報酬だけでも十分。迷ったら税理士に試算を

