ひとり合同会社の剰余金配当(利益の配当)|やり方・決定書・税金(源泉20.42%→総合課税+配当控除で還付)・役員報酬との比較・「配当なら会社に知られない?」
役員報酬は期首に決めたら1年間変えられません。でも、期末に「思ったより利益が残った」年はどうするか。ひとり合同会社には利益の配当(いわゆる剰余金配当)という受け取り方があります。社員(出資者)である自分に、会社の利益を配当として払う形です。
この記事では、合同会社の配当のルール(株式会社との違い)、ひとり社員の配当手続きと決定書、配当にかかる税金(源泉20.42%→総合課税+配当控除で還付が出る仕組み)、役員報酬・事前確定届出給与との比較、そして「配当なら会社に知られない?」という疑問への正確な答えまで、期末の配当を実際にやっている設立4年目の私の運用を交えて整理します。

合同会社の配当は「利益の配当」|株式会社との違い
会社法では、株式会社の配当を「剰余金の配当」、合同会社(持分会社)の配当を「利益の配当」と呼びます。検索では「剰余金配当」で調べる人が多いので記事タイトルはそれに合わせましたが、税金の扱いはどちらも「配当所得」で同じです。
| 項目 | 合同会社(利益の配当) | 株式会社(剰余金の配当) |
|---|---|---|
| 根拠 | 会社法621条〜631条 | 会社法453条〜465条 |
| 誰が決める | 社員の請求・定款の定め。ひとり社員なら社員の決定書で決める | 株主総会の決議(取締役会設置会社の中間配当は取締役会) |
| 配分割合 | 定款に定めがなければ出資の価額に応じる(622条)。定款で出資比率と違う配分も可 | 持株数に比例 |
| 配当できる上限 | 配当日の利益額(≒利益剰余金)。超える配当はできない(628条) | 分配可能額。純資産300万円未満は配当不可(458条) |
| 純資産300万円規制 | なし(株式会社だけの規定) | あり |
| 時期 | 会社法上の回数・時期の制限なし。利益額の範囲なら期中も可 | 期末配当・中間配当 |
| 超えて配当したときの責任 | 受け取った社員は超過額を会社に返す(623条)。業務執行社員も連帯責任(629条)。配当した期の期末に欠損が出たら業務執行社員が補填(631条) | 同様の規定あり |
過去の期の利益の積み上がり。決算書の貸借対照表「純資産の部」で確認
出資したお金を戻すのは「出資の払戻し」という別の手続きで、みなし配当の論点が出る
ひとり社長は社員でもあり業務執行社員でもあるので、利益額を超えた配当をすると「返す側」と「連帯責任を負う側」の両方になります。配当日時点の利益剰余金を超えないことだけは、決算書を見て確認してください。
ひとり社員の配当手続き|決定書の書き方と保存
利益の配当・損益分配の条項があるか、効力発生日の定めがあるか。ひな形の定款なら「社員は利益の配当を請求できる」程度のことが多い(ひとり合同会社の定款の中身)
配当日時点の利益剰余金が上限。期末の決算が固まる前なら、税理士に試算表を出してもらう
日付/根拠(会社法621条・定款○条)/配当の総額と1口あたりの額/配当財産(金銭)/効力発生日/支払日/利益額の範囲内である旨/社員の署名・押印。ひとり社員なら「総社員の同意書」の形でも可
配当額の20.42%(所得税・復興特別所得税)を会社が天引きし、残りを自分の口座へ。住民税の天引きはない
「配当等の所得税徴収高計算書」で納付。給与の計算書とは別の様式で、納期の特例の対象にもならない(源泉所得税の納付の手順)
「配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書」を支払確定日から1か月以内に税務署へ。少額の配当は提出を省略できる要件がある
決定書は計算書類・会計帳簿と一緒に保管。計算書類は作成時から10年の保存義務(会社法617条)

- 会社法上は「期末だけ」「年1回だけ」という制限はなく、配当日の利益額の範囲なら期中でも可能
- ただし配当した期の期末に欠損が出ると業務執行社員が補填する責任があるので、決算の見通しが立ってからが安全
- 毎月のように配当すると、実質的に役員報酬の代わりではないかと指摘する税理士もいる。「期末の上乗せ」として使うのが無理のない形
出典:国税庁「配当等の所得税徴収高計算書の記載要領」、同「配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書」
配当の税金(個人側)|総合課税+配当控除で源泉分が戻る
| 項目 | 非上場(ひとり合同会社)の配当 |
|---|---|
| 源泉徴収 | 20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)。住民税の天引きはなし。2027年1月以降は復興特別所得税1.1%+防衛特別所得税で内訳が変わるが合計は20.42%のまま |
| 課税方式 | 総合課税のみ。申告分離課税を選べるのは上場株式等の配当だけ |
| 配当控除(所得税) | 課税総所得1,000万円以下の部分:配当所得の10%/超の部分:5% |
| 配当控除(住民税) | 同 2.8%(区市町村民税1.6%+都道府県民税1.2%)/超の部分 1.4% |
| 少額配当の申告不要 | 1回の支払額が「10万円×配当計算期間の月数÷12」以下なら所得税の申告不要を選べる(年1回なら10万円)。ただし選ぶと源泉分は還付されず、住民税は別に申告が必要 |
出典:国税庁 タックスアンサー No.1330「配当金を受け取ったとき」、同 No.1250「配当所得があるとき(配当控除)」、江東区「税額控除(配当控除)」、中央区「配当所得」
なぜ還付が出るのか
源泉徴収は一律20.42%ですが、確定申告では配当を他の所得と合算した総合課税で税額を計算し、そこから配当控除(10%)を引きます。所得税の限界税率が20%の人なら、配当にかかる所得税は実質「20%−10%=10%」程度。源泉で20.42%引かれているので、差額が戻ってきます。
| 所得税の限界税率(課税所得) | 配当にかかる所得税の実効率(配当控除後・概算) | 源泉20.42%との関係 |
|---|---|---|
| 5%・10%(330万円以下) | 0%(控除で消える) | 源泉分がほぼ全額還付 |
| 20%(330万〜695万円) | 約10.2% | 約10%分が還付 |
| 23%(695万〜900万円) | 約13.3% | 約7%分が還付 |
| 33%(900万〜1,800万円) | 約23.5% | 約3%分を追加納税 |
配当控除は税額控除なので、所得税額が小さいと控除しきれない部分は切り捨て。住民税(10%−配当控除2.8%=7.2%)は翌年度に別途かかる。課税総所得1,000万円超の部分は控除率が5%・1.4%に下がる。
役員報酬が月60万円(年720万円)なら、課税所得はおおむね20%帯です。この帯の人は「配当は源泉で払いすぎている」状態になりやすく、確定申告で戻ってくる。私の還付もこの仕組みです(配当がある年のふるさと納税の上限)。
配当の税金(法人側)|損金にならないのが最大の違い
| 項目 | 役員報酬 | 利益の配当 |
|---|---|---|
| 会社の損金 | ○(定期同額なら全額) | ×(損金不算入)。法人税を払った後の利益から出す |
| 法人税への影響 | 利益が減り法人税が減る | 法人税は減らない(所得800万円以下 15%、超 23.2%) |
| 社会保険料 | かかる(本人+会社で約28〜30%) | かからない(労務の対価ではなく出資の対価。一般に報酬に含まれないと解されている) |
| 源泉徴収 | 毎月、税額表(甲欄)で | 20.42%、支払月の翌月10日に納付 |
| 法定調書 | 源泉徴収票・給与支払報告書 | 支払調書(1か月以内) |
| 期中の変更 | 原則不可(期首3か月以内の改定) | 利益額の範囲で決定書により随時 |
出典:国税庁 タックスアンサー No.5759「法人税の税率」
役員報酬 vs 事前確定届出給与 vs 配当|100万円を動かす計算例
会社の税引前利益100万円を、追加で自分に移すとします。前提は役員報酬 月60万円(年720万円)のひとり社長、所得税の限界税率20%、住民税10%、法人税等の負担は目安22%、社会保険料は労使合計で約28%。すべて概算です。
源泉20.42% ≒ 15.9万円を天引き、手取り約62万円
確定申告:所得税 約8万円に対して源泉15.9万円 → 約8万円の還付
翌年度の住民税 約5.6万円
最終手取り 約64万円/総負担 約36万円(約36%)
社会保険料は増えない。年金も増えない
本人負担社保 約12.4万円
給与所得控除の増加分を引いた課税所得の増加 約66万円
所得税 約13.6万円、住民税 約6.6万円
最終手取り 約55万円/総負担 約45万円(約45%)
ただし社保のうち厚生年金分は将来の年金に反映
期首から一定期限内に税務署へ届出、届出どおりの日・額で支払わないと全額損金不算入
決算の見込みが期首に読める年の上乗せ向き
事前確定届出給与の届出と失敗例
| 向いているケース | 配当 | 役員報酬の増額 |
|---|---|---|
| 所得税の限界税率 | 20%以下(配当控除で実効率が下がる) | 33%以上(配当控除の効きが悪くなる) |
| 法人の所得 | 800万円以下(法人税15%)、繰越欠損がある年 | 800万円超(法人税23.2%) |
| 社会保険料 | 増やしたくない | 将来の厚生年金を増やしたい |
| タイミング | 期末に利益が見えてから決めたい | 期首に1年分を決められる |
| 住民税 | 「自分で納付」を選べる所得 | 給与分として特別徴収 |
限界税率20%帯なら配当の総負担が約36%、役員報酬の増額は社保込みで約45%。この差が、私が「期中の報酬は動かさず、期末の上乗せは配当」にしている理由のひとつです。ただし配当は法人税を払った後の利益を使うので、法人所得が800万円を超える年や、限界税率が33%に上がると逆転し得ます。毎年の数字は税理士の試算で見てください(役員報酬の決め方、役員報酬の試算例、ひとり社長の社会保険料)。
「配当なら会社に知られない?」|住民税の扱いを正確に
会社員のまま合同会社を持っている人がよく気にするのが、本業の会社に住民税で知られないか、という点です。配当については、次のように整理できます。
| 論点 | 正確なところ |
|---|---|
| 配当所得の住民税 | 給与・年金以外の所得なので、確定申告書第二表で「自分で納付」(普通徴収)を選べる。選べば本業の特別徴収には合算されない |
| 選んでも特別徴収になる例外 | 主たる給与の源泉徴収票から計算した住民税額のほうが大きい場合など、自治体の運用で特別徴収に回ることがある(文京区の案内)。お住まいの自治体に確認 |
| 少額配当の申告不要を選んだ場合 | 所得税は申告不要でも住民税は申告が必要。住民税申告書で申告し、徴収方法を選ぶ |
| 役員報酬をもらっている場合 | 配当とは別に、自分の会社からの役員報酬は給与所得。給与支払報告書が市区町村に行くので、住民税の合算の論点は役員報酬側で起きる(会社員が合同会社を作ると本業に知られる4経路、会社員のまま役員報酬をもらう人の確定申告) |
| 2024年度からの課税方式の統一 | 所得税と住民税で違う課税方式を選べなくなったのは上場株式等の配当の話。非上場の配当は元から総合課税のみなので直接の影響はない |
出典:文京区「副業がある場合の住民税の徴収方法」、中央区「配当所得」
まとめると、配当分の住民税は普通徴収を選ぶことで本業の給与と分けやすくなりますが、例外があり、確実に分からなくなる方法はありません。就業規則で副業・役員就任がどう扱われているかを先に確認するのが筋です(就業規則で確認する3か所)。
配当か、内部留保か
利益が残ったからといって、毎年全部を配当する必要はありません。配当は「法人税を払った後の利益を、もう一度個人で課税して外に出す」行為なので、急いで使わないお金は会社に置いておく選択もあります。
- 役員退職金の原資:退職所得は税制上の優遇が大きい。長く続けるなら出口として有力
- 運転資金:入金が1〜2か月後になる業種では、数か月分の固定費を会社に置いておくと安心(毎月のお金の流れ)
- 共済と組み合わせる:経営セーフティ共済は会社の損金、小規模企業共済・iDeCoは個人の所得控除。利益の置き場所を分散できる(経営セーフティ共済、小規模企業共済)
- 法人と個人のお金の区別を崩さないことが前提(法人のお金と自分のお金の分け方)
よくある質問
まとめ
ひとり合同会社の利益の配当は、社員の決定書1枚で、利益剰余金の範囲内なら実行できます。税金は源泉20.42%で天引きされますが、総合課税+配当控除で限界税率20%帯までなら還付が出やすく、社会保険料もかかりません。一方で法人税を払った後の利益を使うので、法人所得が大きい年や所得税率が高い人は役員報酬のほうが有利になり得ます。私は期首に決めた役員報酬を動かさず、期末の上乗せを配当にして、確定申告で還付を受ける運用を続けています。
- 合同会社の配当は「利益の配当」(会社法621条)。上限は配当日の利益額(≒利益剰余金)。純資産300万円規制は株式会社のみ
- ひとり社員は社員の決定書で決める。源泉20.42%を天引きし翌月10日に納付、支払調書を1か月以内に提出
- 個人側は総合課税のみ(申告分離は選べない)。配当控除10%/住民税2.8%で、限界税率20%帯なら源泉分の約10%が還付
- 法人側は損金不算入。社会保険料はかからない
- 100万円の試算:配当の総負担 約36% vs 役員報酬の増額 約45%(限界税率20%・法人税等22%・概算)。限界税率33%以上や法人所得800万円超では逆転し得る
- 配当分の住民税は「自分で納付」を選べるが例外あり。確実に分からなくなる方法はない

