役員報酬ゼロ・最低等級のマイクロ法人は大丈夫?|2026年の厚労省通達(3/18・9/14)の線引きと、私が月15万円→60万円にした理由
2026年、「社会保険料の削減」をうたうサービスで法人の役員になっていた人、1万人以上が健康保険・厚生年金の資格を失ったという報道が流れました。これを見て、「自分のマイクロ法人も危ないのでは?」「役員報酬を最低等級にしているけど大丈夫?」と不安になった一人社長は多いと思います。
結論を先に言うと、厚労省の通達が線を引いたのは「会費を払って他人の法人の役員になり、実態のないまま社保に入る」型です。自分の法人で自分の事業を営み、その対価として役員報酬を毎月受け取っている一人社長は、通達が例示した「該当しない例」には当たりません。ただし、「役員報酬ゼロ」は通達以前から社保に入れないし、実態と釣り合わない最低報酬は調査の対象になり得ます。この記事では、通達の原文に書かれた判断基準、報酬ゼロ・最低等級の数字とデメリット、そして私が月15万円→60万円にした理由を整理します。

2026年に何が起きたか
出典:厚労省 保保発0318第1号・年管管発0318第1号(2026年3月18日)、同 保保発0914第1号・年管管発0914第1号(2026年9月14日 一部改正)、年金事業管理部会 資料4
通達が「該当しない」としたのは誰か
通達は、法人の役員の被保険者資格を2つの基準で判断するとしています。これは一人社長を含むすべての役員に当てはまる一般原則です。
着眼点:指揮命令権のある職員の有無/決裁権のある所管業務の有無/役員間の取りまとめや代表者への報告/会議への出席頻度・出勤頻度
役員会への出席手当・実費弁償・退職手当は「報酬」に当たらない
「原則として経営参画に当たらない」とされた例
| 区分 | 通達の例示 | 追加された時期 |
|---|---|---|
| 業務 | 知識向上のためのアンケート回答や勉強会参加など、単なる自己研さん | 3月18日 |
| 業務 | 単なる活動報告・情報共有など、指揮監督や権限行使に当たらないもの | 3月18日 |
| 業務 | 事業紹介等への単なる協力・お願いにとどまり、労務提供の義務を負わないもの | 3月18日 |
| 業務 | 役員相互間の研さん、業務の互助的な紹介など、個人事業主である役員どうしの相互互助的な連携 | 9月14日 |
| 報酬 | 個人事業主等が法人へ役員報酬を上回る会費等を支払っている場合、その報酬は原則として業務の対価と認められない | 3月18日 |
| 報酬 | 会費等が報酬と同額以下でも、会費等が報酬の多くを占めることが常態化している場合などは、労働時間・業務内容等を総合的に勘案して個別判断 | 9月14日 |
| 報酬 | 関連法人に会費等を払わせていて実質的に同一法人とみなされる場合も同じ扱い | 9月14日に明確化 |
「会費等」は名称を問わず、勉強費・広告費・掲載料・参加料・コンサルタント料・協力金・委託費などが例示されています。実態がないと確認された場合は資格喪失届を提出させ、資格を喪失させるとされています。
通達が想定している型と、自分の事業を営む一人社長
その法人に会費・広告費・コンサル料などを払う
業務は勉強会・活動報告・互助的な紹介など
自分の本業は個人事業のまま
契約・納品・請求・経理など業務の実態を説明できる
役員報酬は自分の労務の対価として毎月定額
法人に会費等を払っていない
ただし、①②の一般基準はすべての役員に適用されます。売上がほとんどない法人で、業務の実態がないのに社保目的で報酬を払っている場合は、①の「経常的な労務の提供」があるかが問われ得ます。「対象外だから安心」ではなく「実態を説明できるか」が基準です。
役員報酬ゼロは「禁止された」のではなく「入れない」
「役員報酬ゼロのマイクロ法人が規制された」という言い方を見かけますが、正確ではありません。法人の代表者が被保険者になるのは「法人から労務の対償として報酬を受けている者」というのが昭和24年の通知(保発第74号)以来の原則で、報酬を受けていない代表者は最初から被保険者になれません。2026年の通達はこの原則を改めて明文化したもので、新しくゼロを禁止したわけではないのです。
| 役員報酬 | 社会保険の扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| ゼロ(恒常的) | 健康保険・厚生年金の被保険者になれない。国保+国民年金か、配偶者の被扶養者になる | 法人の事業所自体は強制適用事業所なので、新規適用届は必要(設立後の届出一覧) |
| 一時的にゼロ(療養など) | 使用関係が続いていれば資格は継続するとした社会保険審査会の裁決がある | 「ずっとゼロ」とは別の話 |
| 低額(最低等級) | 加入できる。年金機構は「加入の最低額は定めない」が、低額の場合は報酬の決定経過と業務内容を見て総合判断 | 業務実態と釣り合わない報酬は調査対象になり得る |
| ゼロ → 期中に支給開始 | 社保は支給開始から加入。税務上は定期同額給与にならない(改定は期首から3か月以内が原則) | 増額部分が損金不算入になるおそれ(役員報酬を変えるとき) |
出典:日本年金機構 疑義照会回答(厚生年金保険 適用)、同「法人化した事業主の加入義務」
- 国民健康保険+国民年金:住所地の市区町村で手続き。国保は前年所得で決まるので、個人事業の所得が大きいと高くなる
- 配偶者の被扶養者:配偶者が会社員なら、自分の年収130万円未満(60歳以上などは180万円未満)かつ配偶者の収入の半分未満で第3号被保険者に。個人事業の収入や配当がある場合の判定は保険者に確認
- 退職直後なら任意継続:前職の健康保険を最長2年。保険料は全額自己負担(退職時の社会保険の切り替え)
最低等級の保険料はいくらか(令和8年度・東京)
等級の当て方
| 制度 | 最低等級 | 標準報酬月額 | 報酬月額の範囲 |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | 第1級 | 58,000円 | 63,000円未満 |
| 厚生年金 | 第1級 | 88,000円 | 93,000円未満 |
役員報酬を月6万円にすれば健保1級・厚年1級。月8万円だと健保は4級(88,000円)、厚年は1級のまま。
月額(本人・会社)
| 項目 | 料率 | 全額 | 本人負担 | 会社負担 |
|---|---|---|---|---|
| 健康保険(東京) | 9.85% | 5,713円 | 2,857円 | 2,857円 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 133円 | 67円 | 67円 |
| 介護保険(40〜64歳のみ) | 1.62% | 940円 | 470円 | 470円 |
| 厚生年金 | 18.3% | 16,104円 | 8,052円 | 8,052円 |
| 合計(40歳未満) | — | 約21,950円/月 | 約10,975円 | 約10,975円 |
| 合計(40〜64歳) | — | 約22,890円/月 | 約11,445円 | 約11,445円 |
協会けんぽ東京支部 令和8年度の料率と保険料額表で計算。端数処理は概算。出典:協会けんぽ「令和8年度 都道府県単位保険料率」
「マイクロ法人で社保」の数字上の仕組みはこれです。最低等級なら、国民年金とほぼ同じ金額で健康保険と厚生年金の両方に入れ、国保の所得割が消える。所得が高く国保が月数万円になる人ほど差が大きくなります。ただし法人側には均等割7万円・税理士費用・決算の手間という固定費があるので、差し引きで考える必要があります(赤字でも払う均等割、ひとり合同会社の年間維持費)。個人事業と法人を併用する「二刀流」の考え方は別記事にまとめています。
最低等級のデメリットを数字で見る
| 給付・場面 | 仕組み | 健保1級・厚年1級の目安 |
|---|---|---|
| 傷病手当金・出産手当金 | 標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3(日額) | 58,000円 ÷ 30 × 2/3 = 約1,290円/日(月約3.9万円)。働けない期間の生活費としては心細い |
| 老齢厚生年金(報酬比例部分) | 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数 | 88,000円で1年加入すると年約5,800円の上乗せ。10年で年約5.8万円 |
| 住宅ローン・賃貸の審査 | 金融機関は源泉徴収票・確定申告書の年収を見る | 年収70万円前後では審査の年収に乗らない |
| 失業給付 | 役員は雇用保険の対象外 | 最低等級に限らず役員全般(法人を作って退職すると失業保険は?) |
給付額は概算。支給額の改定・端数処理で前後します。老齢基礎年金の部分は国民年金と同じなので、厚年1級の「上乗せ」は小さいという見方になります。
私が月15万円 → 60万円にした理由


最低等級が悪いわけではありません。私の場合は「毎月の報酬があること」「審査で見てもらえる年収」「病気のときの給付」を優先順位の上に置いた、というだけです。会社員時代の15万円は、本業の会社と自分の法人の2か所で社保に入る「二以上事業所勤務」の手続きをしました(二以上事業所勤務届)。
自分の法人をチェックする5項目
エージェント経由の案件・受託など、法人名義の契約と入金がある。これが「経営参画を内容とする経常的な労務の提供」の土台
期首から3か月以内に決め、総社員の同意書などの書面を残す。期中にゼロから支給開始すると定期同額給与にならない
名称を問わず、報酬と引き換えに法人へ払っているお金があれば通達の想定する型に近づく
契約書・請求書・納品物・経理の記録。年金事務所の調査で「決定経過と業務内容」を聞かれたときに答えられる状態に
法人の新規適用届とは別に、自分の医療保険・年金の手続きが必要
よくある質問
まとめ
2026年の通達は、自分の法人で自分の事業を営む一人社長を狙ったものではありません。線が引かれたのは「会費を払って他人の法人の役員になる」型です。一方で、役員報酬ゼロは通達以前から社保に入れず、最低等級も「業務実態と報酬の説明ができるか」が問われます。私は最低限の報酬を確保したかったので月15万円から始め、独立後は税理士の試算で60万円にしました。報酬の額は節税だけでなく、給付・審査・毎月の生活まで含めて決めるものだと思っています。
- 2026年3/18通知→事業所調査→8/31時点で38社・11,610人が資格喪失→9/14一部改正(厚労省 年金事業管理部会 資料4)
- 判断基準は2つ:①経営参画を内容とする経常的な労務の提供か ②報酬がその対価として経常的に支払われているか
- 「該当しない例」は会費等を払って他人の法人の役員になる型。自分の事業を営む一人社長は例示に当たらないが、一般基準は常に適用
- 役員報酬ゼロは昭和24年の通知以来「被保険者になれない」。新たに禁止されたわけではない
- 最低等級(健保58,000円・厚年88,000円)の社保は本人+会社で月約21,950円(40歳未満・東京)。国民年金17,920円+約4,000円
- デメリットは傷病手当金 約1,290円/日、厚生年金の上乗せ 年約5,800円/加入1年、住宅ローン審査、雇用保険なし
- 私は会社員時代15万円(最低限の報酬を確保・住宅ローン審査)、退職後60万円(税理士の試算表)

