独立するとき貯金はいくら必要?会社員のまま法人を作ってから退職した私の準備
結論から書きます。独立前の貯金は「生活費×月数」だけで考えると、足りなくなりがちです。退職したあとに住民税(前年の所得の分)や健康保険・年金の支払いが増え、法人を作るなら法人の運転資金も必要になり、さらに最初の入金まで2か月近く空くことがあるからです。
この記事では、必要な貯金の考え方を表と計算例で整理します。あわせて、会社員のまま法人を作ってから退職した私の準備の流れも紹介します。


独立前の貯金は「4つの合計」で考える
「独立するなら生活費の半年分」「いや1年分」と、よく言われます。ただ、何か月分が必要かは人によって違います。大事なのは月数より、貯金の中に何を入れておくかです。私は次の4つに分けて考えるのがわかりやすいと思っています。
会社員のときは、住民税も社会保険料も給与から天引きされていました。独立すると、これを自分で払うことになります。しかも住民税は前年の所得で決まるので、収入が一時的に減っても前年分の請求は来ます。違いを表にまとめます。
| 項目 | 会社員のとき | 独立後 | 貯金で見ておく理由 |
|---|---|---|---|
| 生活費 | 毎月の給与でまかなう | 売上が入るまでは貯金から | 収入が安定するまでの期間分が必要 |
| 住民税 | 給与から天引き(特別徴収) | 自分で納付(普通徴収)か、退職時に一括で天引き | 前年の所得にかかるので、収入が減っても前年分は払う |
| 健康保険・年金 | 給与から天引き(会社と負担を分ける) | 任意継続/国保+国民年金/自分の法人の社会保険のどれか | 任意継続は会社が負担していた分も自分で払う |
| 法人の運転資金 | なし | 均等割・税理士・会計ソフト・住所などの固定費 | 売上がゼロでも出ていく |
| 入金のずれ | 毎月決まった日に給与 | 締め日と支払日で入金日が決まる | 最初の入金まで2か月近く空くことがある |
出典:総務省「個人住民税」、協会けんぽ「任意継続」、東京都主税局「法人都民税・法人事業税」の公開情報をもとに作成(2026年10月時点)
退職後に増える支払い:住民税と社会保険
住民税は「前年の所得」にかかる
個人住民税の所得割は、前年1月1日〜12月31日の所得をもとに計算されます。標準税率は合計10%(道府県民税4%+市町村民税6%)です。会社員の最後の年に収入が多かったなら、その分の住民税を独立した翌年に払うことになります。
さらに、会社を辞める時期によって、残りの住民税の納め方が変わります。
- 1月1日〜4月30日に退職:原則として、最後の給与や退職金から残りを一括徴収(地方税法第321条の5)
- 5月に退職:その年度の最後の1回分(5月分)が最後の給与から差し引かれて終わるのが一般的
- 6月1日〜12月31日に退職:本人の申出があれば一括徴収。申出がなければ普通徴収(納付書で自分で納める)に切り替わる
- 例外:最後の給与などが残りの税額より少ない場合などは、一括徴収できず普通徴収になる
出典:総務省「個人住民税」、品川区「特別徴収のご案内」、目黒区「給与からの特別徴収」(いずれも2026年10月時点の公開情報)
6月〜12月に辞めて普通徴収に切り替えると、残りの住民税の納付書が自宅に届きます。一括で引かれない分、手元にお金は残りますが、払う額が減るわけではありません。普通徴収に切り替えた分も、貯金の中で取り分けておくのが安全です。
なお、私は会社員のころから、副業分の住民税を普通徴収(自分で納付)にしていました。住民税の通知が届いたら、その年に払う総額をまず確認しておくと、独立後の資金繰りが読みやすくなります。
健康保険と年金は3つの選択肢から
会社を辞めると、会社の健康保険の資格は退職日の翌日になくなります。次の3つのどれかに切り替えます。
✅ 退職日の翌日から20日以内に申出
⚠️ 会社が負担していた分も自分で払う(標準報酬月額は32万円が上限)
⚠️ 加入できるのは原則2年間
✅ 国民年金は月17,920円(令和8年度)
⚠️ 国保の保険料は自治体ごとに計算
⚠️ 家族の分の手続きも確認
✅ 役員報酬に応じて保険料が決まる
⚠️ 法人と本人の両方で保険料を負担
⚠️ 役員報酬の額を先に決める
出典:協会けんぽ「任意継続」、日本年金機構「国民年金保険料」「適用事業所と被保険者」、横浜市「国民健康保険の届出」(2026年10月時点)
私は会社員のうちから自分の法人で役員報酬を出していたので、1期目は年金事務所で二以上事業所勤務届を出していました(本業の会社には何も依頼していません)。そのため退職後も、自分の法人の健康保険・厚生年金に入っている形です。退職時の切り替えの流れは退職時の社会保険の切り替えの記事に、二以上事業所勤務届は二以上事業所勤務届の手続きの記事にまとめています。
任意継続か国保かで迷う場合は、両方の金額を出してから決めるのが確実です。任意継続は協会けんぽの支部、国保は市区町村の窓口で試算してもらえます。
法人を作って独立するなら「法人の運転資金」も別に必要
法人を作って独立する場合は、個人の生活費とは別に、法人の口座にも運転資金が必要です。売上がゼロの月でも、法人として出ていくお金があるからです。
| 費用 | 内容 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| 法人住民税の均等割 | 赤字でもかかる | 東京都(特別区のみ・資本金等1,000万円以下・従業者50人以下)で年7万円 |
| 税理士の顧問料 | 決算・申告の依頼など | 事務所によって違う(私は月2万円弱) |
| 会計ソフト | 記帳・請求書の作成 | 各社の料金プランによる |
| バーチャルオフィス | 本店の住所を借りる場合 | 各社の料金プランによる |
| 社会保険料(法人負担分) | 役員報酬を出す場合 | 役員報酬の額で決まる |
| 役員報酬 | 自分の生活費の源 | 最初の入金前の月も法人から払う |
出典:東京都主税局「法人都民税 税率表」(2026年10月時点)。税理士の顧問料は筆者の実例
見落としやすいのが最後の役員報酬です。独立すると、売上は法人の口座に入り、自分の生活費は法人から役員報酬として受け取ります。最初の入金がまだなくても、役員報酬の支払日は来ます。その数か月分を払えるだけの資金が、法人の口座にあるかを確認しておきましょう。役員報酬の決め方は役員報酬の決め方で詳しく書いています。
1期目の私は7か月で小さな赤字でしたが、法人住民税の均等割(月割)は払っています。赤字でもかかる税金があることは、最初から運転資金に入れておくと安心です。
貯金だけで全部まかなおうとしなくても大丈夫です。私は設立時に日本政策金融公庫の創業融資を利用しました。税理士事務所が支援してくれて、面談にも同席してくれました。流れは公庫の創業融資の記事にまとめています。
見落としやすい「入金サイト」のずれ
会社員の給与は、毎月決まった日に入ります。一方、業務委託やSESの報酬は「締め日」と「支払日」で入金日が決まります。この締め日から支払日までの期間を入金サイトと呼びます。よくあるのが「月末締め翌月末払い」です。
支払条件ごとに、最初の入金がいつになるかを並べるとこうなります。
| 支払条件 | 稼働開始 | 最初の入金 | 稼働開始からの空白 |
|---|---|---|---|
| 月末締め翌月15日払い | 10月1日 | 11月15日 | 約1か月半 |
| 月末締め翌月末払い | 10月1日 | 11月30日 | 約2か月 |
| 月末締め翌々月末払い | 10月1日 | 12月31日 | 約3か月 |
※日付は計算例です。実際の支払条件は、契約書や注文書で必ず確認してください
つまり、案件が決まっていても、入金サイトの分だけは生活費と役員報酬を貯金から出すことになります。契約書のどこで支払条件を確認するかはSES契約書のチェックポイントにまとめました。
案件探しの段階で、支払サイトの条件もあわせて確認しておくと、貯金の計画が立てやすくなります。
まず2〜3社に登録して、提示単価と支払サイトを比べる材料にしてください。Midworksは福利厚生と支払サイト(翌月20日)が特徴、IT求人ナビは週3日以下やリモートの相談がしやすいエージェントです。クラウドワークス テックは週3日・リモート案件の多さ、techadaptはエンド直・元請け直の案件が特徴です。
週4日〜・1日8時間以上の案件を紹介。福利厚生と、翌月20日払いの支払サイトが特徴です。
これからフリーランスに転向するエンジニア向けのエージェントで、開業届や青色申告など税務まわりの相談にも対応しています。対応エリアは一都三県です。
計算例:貯金はいくら用意すればいい?
ここまでの4つを、仮の数字で足してみます。以下は計算の流れを示すための例で、私の実際の金額ではありません。住民税と国保は、人によって大きく変わります。
| 項目 | 考え方(仮の条件) | 金額の例 |
|---|---|---|
| ①生活費×月数 | 生活費30万円×6か月(入金サイトの空白を含めて見込む) | 180万円 |
| ②住民税 | 普通徴収に切り替えた残りの分(仮に30万円) | 30万円 |
| ②国民年金 | 17,920円×6か月(令和8年度の月額) | 107,520円 |
| ②国民健康保険 | 自治体で試算(仮に月2万円×6か月) | 12万円 |
| ③法人の運転資金 | 均等割7万円+税理士の顧問料(仮に月2万円×6か月) | 19万円 |
| 合計 | ①〜③の合計 | 約252万円 |
出典:日本年金機構「国民年金保険料」、東京都主税局「法人都民税 税率表」(2026年10月時点)。その他は仮の数字
自分の法人の社会保険に入る場合は、②の国民年金と国保の行の代わりに、役員報酬にかかる社会保険料(法人負担分と本人負担分)が入ります。役員報酬を毎月払う分も、③の運転資金として見ておきます。
この表のポイントは、生活費だけなら180万円でも、実際には70万円以上が上乗せされることです。生活費の何か月分を用意するかを決めたら、そこに②③を足す。この順番で考えると、抜けが少なくなります。
- 住民税:5〜6月に届く住民税の通知、または市区町村の窓口
- 国保:市区町村の窓口(前年の所得で試算してもらう)
- 任意継続:協会けんぽ(または加入している健康保険組合)
- 法人の均等割・役員報酬・社会保険料:顧問税理士
- 入金サイト:契約書・注文書の支払条件
会社員のまま法人を作ると、この空白を小さくできる
私が一番伝えたいのはここです。会社員のうちに法人を作り、副業の売上を法人に入れておくと、退職後の「収入のない期間」を小さくしやすくなります。私の流れはこうでした。
費用が安いので合同会社を選びました。資本金100万円は自己資金です。
副業の取引を法人で受けるようにして、法人の口座に売上が入り始めました。
設立の7か月後です。退職日に合わせて、決算月も9月にしました。
役員報酬を15万円から60万円に変更(2期目の初めから。税理士と試算して決定)。
この順番にすると、退職した時点で法人の口座にはすでに副業の売上が入っている状態になります。法人口座や法人カード、税理士との契約も在職中に済んでいるので、退職してから準備を始めるより、空白の期間を短くしやすくなります。
✅ 口座・カード・税理士の準備が在職中に終わる
✅ 退職月と決算月をそろえられる
⚠️ 就業規則の確認と、社会保険の手続きが必要
⚠️ 法人口座ができるまで請求先の口座がない
⚠️ 入金サイトのずれがそのまま空白になる
✅ 在職中の会社との調整はいらない
ただし、会社員のまま法人を作るときは注意点もあります。まず就業規則で副業・兼業のルールを確認すること。私は副業をしていることは会社に伝えていて、法人の設立は辞めるときに正直に話しました。会社に伝わるかどうかの考え方は会社員が合同会社を作ると会社にバレる?で書いています。
決算月の決め方は決算月の決め方の記事が参考になります。私は退職日が9月末で、SESの案件が10月から始まる予定だったので、9月決算にしました。

貯金なしで独立するのは無理?チェックしたいこと
貯金がほとんどない状態で独立すると、住民税や健康保険の支払い、入金サイトの空白が一度に来たときに、生活費が足りなくなるおそれがあります。ただ、「貯金がいくら以上ないと独立できない」という決まりはありません。大事なのは、足りない分をどう埋めるかを先に決めておくことです。
- 退職前に、次の案件の開始日と支払条件(締め日・支払日)が決まっているか
- 退職の時期によって、住民税がいつ・いくら来るかを把握しているか
- 健康保険を任意継続・国保・法人の社会保険のどれにするか決めているか
- 法人なら、最初の入金までの役員報酬と固定費を払える資金があるか
- 公庫の創業融資など、貯金以外で資金を用意する方法を検討したか
- 家族と、辞める時期とお金の見通しを共有しているか
私は辞める時期を家族にこまめに相談していました。家族が理解してくれたことは、独立を決めるうえで大きかったです。お金の数字だけでなく、家族と見通しを共有しておくことも、準備のひとつだと思っています。独立までの経緯は会社員からひとり合同会社で独立した経緯にまとめています。
よくある質問
まとめ
独立前の貯金は、生活費だけでなく「退職後に増える支払い」と「入金のずれ」まで入れて考えるのがポイントです。会社員のまま法人を作っておくと、退職後の空白を小さくしやすくなります。
- 必要な貯金は「生活費×月数+住民税・社会保険+法人の運転資金+入金のずれ」で考える
- 住民税は前年の所得にかかる。辞める時期で一括徴収か普通徴収かが変わる
- 健康保険は任意継続・国保+国民年金・自分の法人の社会保険から選ぶ
- 月末締め翌月末払いなら、最初の入金まで2か月近く空くことがある
- 会社員のまま法人を作り、副業の売上を法人に入れておくと空白を小さくしやすい
- 個別の金額は、自治体の窓口・協会けんぽ・顧問税理士で確認する

